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【ノーホーマー・ノーサヴァイヴ】

◇総合目次 ◇エピソード一覧
この小説はTwitter放送時(2020年再放送版)のログをアーカイブしたものです。このエピソードの加筆修正版は、上記リンクから購入できる第3部の物理書籍/電子書籍に収録されています。またこのエピソードは「ニンジャスレイヤー グラマラス・キラーズ」でコミカライズされています。


1

 オニタマゴ・スタジアム。ウシミツアワー。

 深夜の球場照明プレートは、当然、消灯されている。代わりに、観客席(当然、無観客である)のポイントポイントに設置された蝋燭のジゴクめいた灯火と、墓碑めいて白く四角いベースの蛍光発光装置が、グラウンドをかろうじて照らし出す。

 オニタマゴ・スタジアムは湾岸のイルカモノ・スタジアムと並んでネオサイタマが誇るハイ・テックなドーム式球場だ。しっかりと照明が働いていれば、ドーム天井に描かれた聖ラオモトの禍々しきブッダ戦士図画を見上げることができただろう。だが今この空間は、さながらブードゥー闇儀式の場である。

 ……聖ラオモト?今、聖ラオモトと記述されていたか?然り。察しの良い読者の方は、恐るべき認識に至った筈だ。すなわち、この球場をスポンサードするのは、故ラオモト・カンの息子、ラオモト・チバ……ネコソギ・ファンド社主にして暗黒ニンジャ組織アマクダリ・セクトの首領なのである!

 そして、おお、何たることか。暗視サイバネアイをお持ちでない諸氏には目を凝らして頂くしかない。グラウンドは無人ではない。ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト、ライト、センター……各ポジションでグローブを構えるのは完全武装のサイボーグ野球ヤクザ達だ。では、投手・捕手は?

 キャッチャーは壁めいた巨体だ。スモトリ?否、彼はニンジャソウル憑依によってこの巨体を手に入れた。全身を鎧うスパイクプロテクターの胴体部には、「天下」の漢字と下り矢を重ねたエンブレム……アマクダリ・セクトの荘厳かつ謎めいた意匠!ケンドーめいたフルヘルムの隙間に眼光が浮かび上がる!

「シューフフフ……」呼吸孔とバイクのマフラーじみた左右の管から煙を吐きながら、そのビッグニンジャは、残忍な視線をバッターボックスに立つ者へ向けた。「ニンジャのスポーツマンシップは甘くねェぞ……」そして彼はピッチャーマウンド上のニンジャを見やった。「楽しくなるぜ……」 

 闇の中、ピッチャーマウンド上のニンジャの恐るべき瞳が光った。目だけではない。その右肩から指先が、不穏な薄紫の燐光を纏っている。ニンジャ腕力を強化する何らかのエンハンスメント・ジツだ。「普段、奴は手加減している……非ニンジャ相手に投げる時はな……」キャッチャーニンジャは囁いた。

「非ニンジャのクズには到底、奴の全力投球を受けきる事はできねえ。ミットを、プロテクターを、貧弱な肉体を貫通し、背中から抜けちまう。だが今夜は違う。俺はニンジャだ。俺がキャッチャーならば奴は全力を出せる。絶望しろ。奴は……サブスティテュート=サンは暗殺野球のプロフェッショナルよ」

「奇遇だな」それまで黙っていた打者が、その時初めて答えた。「私もオヌシらを、このスタジアムから生かして帰そうとは思っておらん」……バットを構えたのは、赤黒装束に身を包んだニンジャであった。彼のメンポ(面頬)には、恐怖を煽る字体で、「忍」「殺」の文字がレリーフされていた。


第3部「不滅のニンジャソウル」より:【ノーホーマー・ノーサヴァイヴ】


 ニンジャ投手とニンジャ打者の視線がぶつかり合った。鋼ヘルメットのつば越しに、赤黒のニンジャは……ニンジャスレイヤーは、マウンド上の敵の全挙動を追う。彼らは既にアイサツを済ませていた。マウンド上のニンジャの名はサブスティテュート。キャッチャー役のニンジャの名はフォートレス。

 アマクダリ側のベンチには腕組みしたヤクザが満載されている。彼らは皆同じ顔をし、同じ姿勢で、無表情にグラウンドを凝視している。クローンヤクザ、それも野球用にサイバネ強化された個体群だ。対するニンジャスレイヤー側のベンチは?……無人である。

 スコアボードLEDは送り火めいている。一回表。この段階でニンジャスレイヤーは最初の罠を回避し、辛くも命を拾った形だ。一球も投げられていない現時点で、既にイクサは始まっている。協力者ナンシー・リーがかろうじて行った介入行為。UNIXシステムの一部をハックし、先攻をもぎ取る事ができた。

 ニンジャスレイヤーが後攻であれば、どうなったか?ニンジャスレイヤーは独りだ。ゆえに、投球を受けるキャッチャーがいない。試合は続行不可能となり、ニンジャスレイヤーは自動的に敗北する。当然アマクダリもその算段に嵌めるつもりであった筈だ。だが、その目論見は破られた。

 依然として状況は予断を許さない。圧倒的不利なゲームのスタートラインになんとか立つ事ができた、それだけだ。ナンシーはアマクダリの防衛システムによってbanされ、これ以上の工作は行えまい。「お前、後悔するぜ」フォートレスが笑った。「大人しく失格処刑されていれば楽に死ねたッてよ」

 サブスティテュートが片脚をほぼ真上、垂直に高々と上げた。砂埃が舞い、その輪郭がぼやける。ニンジャスレイヤーは己の心臓の鼓動を聴いた。ゴウ!砂埃が渦を巻き、次の瞬間には、フォートレスのミットがズシリと音を立てていた。フォートレスはキャッチ姿勢のまま1フィート後ろへ滑っていた。

「……ストライク!」アマクダリ審判がボディランゲージを繰り出しながら叫んだ。フォートレスはサブスティテュートにボールを投げ返した。「こういう事だ。そして、今のはウォームアップ、ちょっとした遊びよ。お前、これからジゴクを見るぜ」「……」ニンジャスレイヤーは再びバットを構えた。

 サブスティテュートが高く脚を上げた。砂埃が渦巻く!「イヤーッ!」ゴウ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバットを振り抜く!SMASH!ボールは斜め後方へ高く跳ね上がった。フォートレスはフェイスガードメンポを引き上げ、素早く振り返ってボールを目で追う。ボールは後部客席に落下!

「ファウルボール!」アマクダリ審判が判定した。「……」フォートレスがボックスへ戻るニンジャスレイヤーを睨んだ。ニンジャスレイヤーは彼を一瞥した。「遊びとやら、いつ止める」「フン……減らず口を叩けるうちに叩いとくがいいぜ」サブスティテュート第三球!「イヤーッ!」

 ゴウ!砂埃が渦巻く!ナムサン!極めて強力なニンジャ動体視力の持ち主であれば、この第三球がニンジャスレイヤーの頭部を照準していた事に気づいた事だろう!早くも遊びは終わりなのだ!「イヤーッ!」SMASH!ナムアミダブツ!

 癒着審判は危険球を不問!「死…何ッ!?」フォートレスは快哉の途中で凍りついた。目に映ったのは、上半身を思い切り反らしながらバットを振ったニンジャスレイヤーの姿!ボールは?サブスティテュートめがけ一直線に飛んでゆく!ピッチャー返しだ!危険球を躱しつつ、打ち返したのだ!「バカな!」

 サブスティテュートはグローブを一瞬構え、この殺人ピッチャー返しの捕球を検討した。だが彼はそれを諦め、「イヤーッ!」回転ジャンプによってボールを危うく回避!この状況判断は妥当である。この近距離でニンジャの打球を取るのはリスクが高すぎる!彼は二塁手を振り返った。「アバーッ!」

 サイボーグ二塁手ヤクザの脳天が爆ぜた。即死!ナムアミダブツ!血を噴きながら死のダンスを踊る彼の横を、赤黒い風が行き過ぎた。それは一塁を既に蹴ったニンジャスレイヤーだ!二塁手の脳天を貫通した打球はやや勢いを弱め、フォローに入ったセンターヤクザの手前地面で浅くバウンドした。

 ニンジャスレイヤーは走る!二塁打?三塁打?それは敗北を意味する。出塁すれば次の打者がおらず、即失格となるからだ!センターヤクザは三塁手ヤクザめがけボールを投擲!なんたるニンジャではないがサイバネティクスとクローンヤクザの身体能力によって非凡な肩の力!ニンジャスレイヤーは加速!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの身体が左右にぶれ、三塁手ヤクザの懐をすり抜けた。三塁を蹴り、反射するかのようにフリップジャンプ!着地前転!そのまま減速せず走り出す!ホームベース!立ちはだかる巨漢ニンジャ!フォートレス!「ヌウウーッ!おのれニンジャスレイヤー=サンーッ!」

 三塁手が投げた球がニンジャスレイヤーの頭上を越え、フォートレスをめがける。「死ね!」フォートレスは球をキャッチし、ニンジャスレイヤーの脳天を叩き潰そうとした。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの身体が沈んだ。非常にコンパクトな姿勢のスライディングだ!フォートレスの股下を通過!

 砂煙が立ち上る!ニンジャスレイヤーの影がホームベースを滑りながら蹴った事がかろうじて視認できた。アマクダリ審判は、渋々、といった様子でボディランゲージを繰り出す。「……セーフ!」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスライディングから前転、グラウンドに転がる鋼ヘルメットを拾い上げてフリップジャンプ、側転し、バッターボックスに着地した。彼はヘルメットを被りながらサブスティテュートを見た。サブスティテュートは無言。スコアボードに「1点」の表示が灯る!

 ニンジャスレイヤーは呼吸を整えボードを眺める。長い戦いとなろう。スリーアウトで敗北。さりとて出塁もまた敗北。許されるのは本塁打のみだ。それによってこの一回表で128点を取り、UNIX計算システムに極度負荷を与えて爆発させ、以てコールドゲームとするしかない。

 どこからともなく球場スタッフがグラウンドに現れ、二塁手ヤクザの死体をストレッチャーに載せて去ってゆく。ベンチからはこれに合わせてサイボーグヤクザが一人補充され、セカンドのポジションへ小走りに向かって行く。ニンジャスレイヤーはバットを構えながら、事の発端へ思いを馳せる……。


◆◆◆


 ……とあるニンジャを殺害したニンジャスレイヤーのもとに、白装束姿のクローンヤクザが現れたのは、五時間前の事だ。白装束ヤクザはニンジャスレイヤーに不吉な黒のオリガミ・メールを差し出し、その場でセプクした。

 オリガミを開いたニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。アマクダリ・セクトのエンブレム。「果たし状」「オニタマゴ・スタジアム、ウシミツアワー本日」とショドーされていた。更にオリガミにはもう一枚、カーボン複写された文書が挟まれていた。内容を確かめたニンジャスレイヤーは思わず息を呑んだ。

 それは、ニンジャスレイヤー自身の筆による誓約書の写しであった!しかもハンコまで捺されているのだ。一体誰がこんな偽装を!?盟友ナンシー・リーが憤慨したのももっともである。だが、残念ながら、ニンジャスレイヤーには心当たりがあった。

 その文書とハンコのおおもとは、かつてザイバツ・シャドーギルドとのイクサを終えてそう時を経ぬ頃……己を顧みることのなかった彼が、なかば捨て鉢に書き捨てた身請けの文書であった。借金の肩代わりだ。

 金貸しの名はクルーエル。ニンジャである。道端ですれ違ったサラリマン役員に難癖をつけて監禁・殺害したうえ、悲しみにくれる家族に無理やり借金させ、更に搾り取った外道殺人鬼だ。ニンジャスレイヤーは哀れな家族の全借金を肩代わりし、債権者クルーエルを残虐な逆さ吊りで殺害。債権放棄させた。

 遺族の債務消失を確認し、借用文書は全て焼き捨てた筈。その筈であった。しかし筆跡とハンコのデータがバックアップされていたものだろうか?彼自身にも、当時のウカツでデスパレートな己を信じ切る事ができない。現に、その文書を利用したと思しき新たな捺印誓約書が、こうして突きつけられている。

【今夜ウシミツ・アワー。オニタマゴ・スタジアムでの野球試合に、私ニンジャスレイヤーは単独で参加します。敗北時、あるいは試合に参加できない場合、スタジアム内でドゲザしたのち、セプクを行います。試合終了時、私の死亡時、この誓約書は拘束力を失います】……内容は概ね、そんなところだ。 

 狡猾な内容であった。すぐさまセプクを強いるものであれば反故にもできよう。だが、ギリギリのところでこの契約は妥当性を持ち、成立してしまっている。弁護士が関わっているに違いない。この国は契約と名誉の社会だ。反故にすれば彼は名誉を失う。世間?否。己自身の矜持を永遠に汚す行為なのだ。

 誰がこの偽造を行ったのか……?ニンジャスレイヤーはバットを構え、サブスティテュートを見据えた。奴ではあるまい。ましてや、このフォートレスでもなかろう。この者らは戦士だ。偽造を行った本体を突き止めねばならぬ。だがそれは後だ。今はこの者らが仕組んだこのゲームに勝ち、生き残るべし!


 ……ここであらためて、野球というスポーツについて、再放送の今回も説明しておきたい。まず◇を書く。それぞれの頂点部が、下から反時計回りに、ホーム、一塁、二塁、三塁だ。ホームのバッターボックスに攻撃側のバッターが立つ。そして、◇の中心あたりにいるピッチャーの投げる球をバットで打つ。

 ボールを正しく打ったバッターは、塁を1.2.3……と走って進む。進む際はオモチめいたベースを踏まねばならない。ホームへ帰れば1点入る。ボールを持った守備者に触れられればアウトとなり、排除される。アウトにされないように点を沢山取るのがコツだ。

 ストライクを3つ取られるとアウトとなり排除される。バウンドしないボールを守備者にキャッチされてもアウトだ。排除される。排除されてはならない。我々にとって謎めいているのがファールの考え方である。◇の左右外側に打球がいってしまうとファールだ。これはストライクを取られたのと同じ事だ。

 しかし、ファールではアウトにならない。何回ファールしてもアウトにはならない。首の皮一枚が繋がった状態といえる。これは覚えておく価値があろう。ルール解説はこれで全てだ。つまりニンジャスレイヤーはソロホームランを出し続けて128点取るしかないという事、ご理解頂けたと思う。
 


「フフフ……後悔と死の恐怖で貴様のニューロンははち切れんばかりだろう」フォートレスが囁いた。「だが時すでに遅しよ……俺たちは殺し合いのカラテでは残念ながら貴様に遅れをとろう。ベイン・オブ・ソウカイ・シンジケート。ネオサイタマの死神よ。俺はサンシタどもと違って詳しいからな……」

「イヤーッ!」サブスティテュートが投げた!砂塵が渦巻き、螺旋を描く高速投球が襲いかかる!「イヤーッ!」ガキィン!ニンジャスレイヤーは打ち上げた!斜め後ろ上方!フォートレスはフェイスガードを引き上げ振り返る。だが追わなかった。明らかなファール、グラウンド外であると見極めたのだ。

「ファウルボール!」アマクダリ審判が叫んだ。「打てまい……まっすぐ打てまい。エエッ?いつまで続くかな、ニンジャスレイヤー=サン」フォートレスが笑う。「さっきのまぐれ当たりをいつまで期待できるかな?」「……」

「この試合セッティングはサブスティテュート=サンと俺にとって天啓よ……カラテのワザマエで勝てぬキンボシを、圧倒的なスポーツマンシップで、何もできぬままに潰して殺す……これぞフーリンカザンよ……!悔しいか?お前は野球で死ぬのだ!カラテではなく!スポーツで!」「これはイクサだ」

「ほざくがいい!」「イヤーッ!」サブスティテュートが投げた!「イヤーッ!」ガキィン!またしても斜め後ろに飛ぶ打球!「ファウルボール!」「……」フォートレスの目がドロリと濁った。「オイオイ……舐めるなよ。サブスティテュート=サンの消耗を待とうってのか?」彼はやおら立ち上がった。

 直立したフォートレスのビッグニンジャならではの巨体は、岩山めいて恐ろしい!彼は右手キャッチャーミットを高く斜め上に掲げた。「グフフ……わかるか、この意味が」「……!」ニンジャスレイヤーは眉間に皺寄せる。フォートレスは侮蔑的に見下ろした。「わかったようだな」

 フォートレスはサブスティテュートに合図した。大ニンジャは言った。「察しの通りよ。いじましい努力に応えて、お前を出塁させてやるぜ。次のバッターに任せろ……居なけりゃ失格処刑だがなァ!」「イヤーッ!」サブスティテュートが放物線を描くボールをフォートレスの高く上げた右手めがけ投擲!

 ナムサン!なんたる高さと遠さか!バッターボックス内のニンジャスレイヤーがバットを届かせる事はもはや物理的に不可能ではないか!放物線を描いて投げ込まれた投球はフォートレスの天高いミットに吸い込まれる。「ボール!」アマクダリ審判が叫び、スコアボードのBのランプが一つ点灯した。

 サブスティテュートが再び放物線投擲!「ボール!」Bのランプが二つ点灯!Bランプは三つしかない。四回ボールを出せば、守備側ペナルティとして、バッターは一塁に出塁する。通常であればこれは守備側のウカツを意味する。だが、限られた局面において、あえてバッターを敬遠する戦術がある。

 強打者に本塁打を打たれるよりも敢えて塁に送り、次の打者で倒す。損して得取る方法だ。そして考えてもみてほしい、今この状況を。今は上記シチュエーションのいわば極致。思い出していただきたい。ニンジャスレイヤーは独りなのだ。他にバッターボックスに立てる者無し!出塁してはならないのだ!

「イヤーッ!」またも放物線!なんたる事か!「ボール!」「グフフフフ……お前の背中が小さく小さく、頼りなくなってきたぜ……」フォートレスが嬉しそうに言った。「次で終わりだ。ボールフォアでお前の人生もゲームセットよ」「……果たして、そうかな」「何?」 


2

 フォートレスは聞き咎めた。ニンジャスレイヤーは答えず、マウンドのサブスティテュートに向き直る。だがフォートレスはやがて笑い出した。「生意気な奴にはペナルティを与えるのが俺の作法よ」そして右へ足をにじり、さらに遠く高く右手を掲げた。「俺の、ジョックのスタイルよ!出る杭は打つ!」

「イヤーッ!」サブスティテュートの目が処刑人めいてギラリと輝き、さらに高い放物線球が放られた。ナムサン。これは打てぬ。ゲームセットカウントダウンか?だが、その時だ!ニンジャスレイヤーはカッと両目を見開き、叫びながら跳躍したのだ!「イヤーッ!」「何!」フォートレスが目を剥く! 

 回転しながらバッターボックスを大きく逸脱して飛び離れたニンジャスレイヤーは放物線球に接近……そして、空中でバットを振り抜いた!「イヤーッ!」ガキイン!「バカな!」フォートレスが煙を吹いた。「だがボックスに戻れまい!外に足をつけば失格!反則自殺行為もいいところ……グワーッ!?」

 フォートレスは己の右手首を見た。何かが巻きついている。……縄?そう、それはフックロープだ!「何……?これは!取れぬ!」見よ!縄のもう一方の端は、当然空中のニンジャスレイヤーだ!「バカな、バカなーッ!」その時だ!「グワーッ!」「サブスティテュート=サン!?」

 ゴウランガ!打球はドライブ回転しながらサブスティテュートの肩に直撃していた!「グワーッ!」サブスティテュートは悲鳴を上げ、マウンドでのたうつ!「バカな!」フォートレスは狼狽した。だが彼は注意を逸らすべきではなかった!いまだ空中にあるニンジャスレイヤーの動きから!「イヤーッ!」

 ロープ巻き取り機構を働かせ、ニンジャスレイヤーがフォートレスへ飛来!「イヤーッ!」「グワーッ!?」強烈な空中踵落としがフォートレスの肩に叩き込まれた!その反動でニンジャスレイヤーは一塁側へ回転ジャンプ!回転の中からヘルメットが飛び出し、フォートレスの顔面を直撃!「グワーッ!」

「何が起こったんです!?」アマクダリ審判はなす術なくニンジャ達を交互に見た。ニンジャスレイヤーは回転着地、さらにフリップジャンプして、一塁ベースを蹴ると、二塁へ向かってスプリントを開始した!「カバー……カバーしろーッ!」「スッゾー!」サイボーグ野球ヤクザが転がる球に飛びつく!

「ザッケンナコラー!」二塁手へ……否!野球サイボーグの精密な状況判断をもとに、三塁手へ投擲!ボールをキャッチしたヤクザが、致命的スパイクで覆われた殺人グローブでニンジャスレイヤーに殴りかかった!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身を沈め、攻撃をワン・インチ回避!ホームへ走る!

「スッゾオラー!」ベンチの野球ヤクザが隠しチャカ・ガンでニンジャスレイヤーを射撃!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは走塁しながらこれをブレーサー(手甲)で弾き返し、さらに加速する!「死ね!内臓をブチまけて死ねーッ!」フォートレスがスパイクタックルの構え!突進す!「イヤーッ!」

「走塁の……」ニンジャスレイヤーは怖じぬ!「邪魔だ!イヤーッ!」「グワーッ!」殺人巨壁タックルを危うく跳んで躱し、交錯時にその横面へ強烈なサイドキックを叩き込む!「何が起こったんです!?」アマクダリ審判が砂煙を見通そうとするうち、ニンジャスレイヤーはホームベースを踏んだ! 

「あと126点」ニンジャスレイヤーはヘルメットを拾い、呟いた。サブスティテュートはストレッチャーで運ばれてゆく。ニンジャスレイヤーはザンシンめいて見守る。敵はこの暗殺野球に全てをかけている。引き下がるまい。強化ZBRアドレナリンを含めたリカバリーを行いASAPで復帰する筈だ。

「味なマネをしてくれるじゃねえか」フォートレスがキャッチャーのポジションへ戻りながら吐き捨てた。ニンジャスレイヤーは替わりにマウンドに立つピッチャーヤクザを見ながら言葉を返した。「くだらぬ小細工にどんな報いが待っているか、理解したか」「これで勝ったと思うなよ……」

 フォートレスの言葉は負け惜しみではない。ニンジャスレイヤーは依然として、少しの弛緩も許されない状況にあるのだ。ピッチャーヤクザサイボーグはサイバーサングラスに「殺しも罪悪感の無い投手」の文字を流し、鋼鉄筋肉の切れ目からUNIX光を発する。ニンジャではないが、威圧的だ。 

 ここまでは良い流れを維持している。だがそれがいつ崩れるとも知れぬのだ。ニンジャといえどスタミナは有限。サブスティテュートが戻るまでに、ニンジャスレイヤーは何点、何十点獲れるか?それがこの勝負を分けるといっても過言ではない。オニタマゴ・スタジアムは彼を捕らえた戦闘牢獄である!


◆◆◆


 アマクダリ・セクト側、緊急医務室!

「モニタリング重点!」「麻酔を!」「神経接合時の誤差を計算……」「ハリーハリー!」十人以上の白衣クローンヤクザがせわしなく行き交い、UNIX計器類がチコチコと音を立てる。ストレッチャーに横たわり、天井を睨み据えるサブスティテュートの目は、怒りと屈辱に燃えていた。 

「投球時の微細なバランスを崩さぬ為には両腕の換装が必要です」スタジアムドクターが冷や汗を流しながら説明した。「麻酔をまずは……」「麻酔など要らぬ!時間の無駄だ」サブスティテュートは吠えた。「このままバラせ」「アイエエッ!?ヨ、ヨロコンデー!」 

 サブスティテュートの四肢は、とうの昔に生身ではない。暗殺行為を効率よく行う為にチューンされたワン・オフのカーボンナノチューブ義四肢であり、彼自身の超自然のエンハンスメント・ジツを合成筋組織に行き渡らせる事で、通常サイボーグには成し得ぬ高いパフォーマンスを得ているのだ。 

 サイバネティクスとはいえ、サブスティテュートの脳に伝わる信号は生身と同じだ。そうでなければ高度かつ芸術的ですらある彼の暗殺野球ムーブは行えない。「3.2.1.分解!」「ウヌーッ!」サブスティテュートはマウスピースを力一杯噛み締め、非ニンジャであればショック死する痛みに耐えた。

 ガゴンプシュー!圧縮空気を発して分解された両肩パーツを控えの白衣クローンヤクザが持ち去り、交換品がすぐに充てがわれた。「カラダニキヲツケテネ!」「カラダニキヲツケテネ!」スタッフ達が叫び合う。サブスティテュートは口の中で呪詛を呟き続ける。「これで勝ったと思うなよ……」

「脳ニューロンから義腕にドライバ情報を行き渡らせる為にどうしても時間を要します!」ドクターがメガネを直しながら説明する。デュアルモニタの一方に、ウサギとカエルが段ボール箱をやり取りする進捗イメージ映像が表示された。「1%未満な」。左のモニタには……試合の中継カメラ映像である。

 サブスティテュートは闘志の炉に屈辱の火種をくべ続ける。野球試合での暗殺行為において彼以上に長けるニンジャはいない。真の暗殺とは、人々にそれを暗殺と悟らせぬものだ。八百長試合に応じない年俸5億超のプレイヤー、桟敷席の政府要人、アイドル、審判。彼の暗殺歴はネオサイタマ野球史だ。

 彼の名はサブスティテュート(代理選手)。スタジアムに上がる時、彼の名は、背格好は、その都度違う。偽装に守られた彼の正体を知るものは非常に少ない。闇社会の、さらに深淵、ニンジャの世界だ。彼はプロフェッショナルであり、無慈悲なチャンピオンであり、天才的プレイヤーであった。 

 意図的な暴投球、ドライブ回転をかけたファールボール、選手や審判がターゲットであれば、殺人スライディング、ビーンボール……過失致死の罪を被るのは、すり替わりの元となる選手達。カネで黙らせ、人質で黙らせ、臭い飯を食わせる。あるいはドラム缶と共に深海魚の友達になってもらう。 

 だが、そんな彼のニューロンに、ここ数ヶ月で翳りが見えてきた。数値情報にはのぼらない、彼自身にのみわかる兆候だ。薬物、サイバネティクスの酷使。疑うべき要因は幾らもある。(潮時だ)暗殺対象のピッチャーがピッチャー返しで即死せず、二日間の昏睡状態を要した時、彼はそう結論づけた。

 仮にナラク・ニンジャが彼についてコメントを求められれば、その能力減退を、カラテ鍛錬に依らず安易なブーストに頼った為であると断じ、粗末な未熟者と罵る事だろう。ともあれ、サブスティテュートは引退に際し、十分な財産を確保しておかねばならぬと考えた。何らかのビッグディールの報酬を。

 ヤクザコネクションを通じて顔見知りであった闇金融ニンジャのクルーエルが遺した予備データが、巡り巡ってサブスティテュートの元に流れて来たのは、まさに僥倖であった。ニンジャスレイヤーはアマクダリ・セクトの大敵。しかも並のニンジャでは歯が立たぬ巨大なキンボシだ。殺せる。野球ならば。

 計画は二重三重の確実性を備えていた。当初の予定では、そもそも彼は投球を行う必要すらなかった。一回表はアマクダリ。守備のニンジャスレイヤーにはキャッチャーがおらず、自動的に全投球が暴投となり敗北……楽な引退試合だ。しかし何らかのUNIXハッキング不具合により、その目論見は崩れた。

 次にビーンボールによる殺害。だが逆襲され兵隊が死んだ。ならば敬遠作戦。逆に彼自身が負傷する結果となった。名も知らぬ暗殺野球の運命神は、彼に安直な小細工を許さず、最後まで楽をさせまいとしているのであろう。それならば、それでよい。圧倒的優位の状況は変わらぬ。全力で叩き潰すのみだ。

「血流ブースト重点!」「ハートアタックします!」「エレクトリック・キック重点!」「3.2.1.キック!」「ウヌーッ!」ドクン!心臓の鼓動音が医療室に響き渡る。視界がホワイトアウトし、再び戻る。霞む視界を通して、彼は左のモニタを見た。天高く翔んだ打球を。 

 パワリオワー!薄暗い球場に鳴り響くUNIXファンファーレ!彼は跳ね起きた。「俺は何分寝ていた!」首を傾げるヤクザ達に挟まれ、ドクターが息を呑む。「アイエッ!そんなでもありません」ドクターが後ずさった。「我々は換装作業を一生懸命滞りなく……」「馬鹿めが!状況を報告しろと言っている!」

 進捗イメージ図画が示すのは「83%」!「言え!何点だッ!」「アイエエッ!我々のせいではありません!」「ダマラッシェー!クチゴタエスルナ!」「アイエエエエ!」ドクターは失禁!「何……点……なんだと……」パワリオワー!更にファンファーレ!……パワリオワー!……パワリオワー! 

 飛翔する打球!ベースを順々に踏んでゆくニンジャスレイヤー!ピッチャーヤクザはこめかみから熱蒸気を発し、高速フォークボール(手前で落下する変化球)を投げる。ニンジャスレイヤーが地面のきわを掬い上げるようにバットを振り上げると、再び打球は天高く……パワリオワー!「108点……だと?」

「とにかく私のせいじゃありません!」ドクターが繰り返した。明らかにこの弁明は蛇足であり、サブスティテュートを激昂させるに十分であった。「イヤーッ!」「ア、アバーッ!?」調整中のサイバネアームがドクターの喉笛を捉え、アルミ缶を握るように容易く捻じり殺した。「早くしろ!貴様ら!」

「「ハイヨロコンデー!」」白衣のクローンヤクザ達が一斉にドスの効いた応答を返し、高速タイピングを継続する。ドライバのインストール進捗がグングン進む。進む速度にはバラつきがあり、91%地点で長く止まった。サブスティテュートは苛立たしげに拳を握り、開く。感覚が徐々に鋭敏になる。

 身体感覚が噛み合うにつれ、彼の精神はクールダウンしてゆく。好ましいアトモスフィアだ。「結局、一度でも取りこぼせば奴の敗けだ。クローンヤクザ相手にイキがったところで、所詮は仮初めの快進撃よ」92%。「勝利条件すら見出せぬまま、コツコツ無駄な足掻きを積み上げておれ」94%……!


◆◆◆


 ……「ハァーッ……ハァーッ」ニンジャスレイヤーはボックス上でバットを地面に立て、寄りかかるように片膝をついた。彼は肩で息をしていた。いかなニンジャといえど、容赦なきフルスイング、あるいはランニングホームランの全力疾走を休みなく重ねていれば、ニンジャ持久力に綻びも生まれる。

「アバーッ!」マウンド上ではピッチャーヤクザがセプクした。フォートレスの指示だ。「やれやれ、これで何人目だ?十五人?二十人?どうでもいいぜ、まったく話にならねえ。そう思うだろ、ニンジャスレイヤー=サン」「ハァーッ……ハァーッ……」「キツいか?キツいだろうなァ。独りだもんなァ」

 マウンドに新たなピッチャーヤクザが立つ。「プレイ!」アマクダリ審判が胸の前で両手をクルクルと回し、無慈悲にニンジャスレイヤーに促した。「ヌゥーッ……」「ホラホラ。最初の威勢はどうしたよ?早くバットを構えろ。反則負けになっちまうぜ。俺はこうしてミットを構えているだけだがな……!」


3

「スッゾオラー!」ピッチャーヤクザが振りかぶり、投げた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは打ち返す!角度が足りぬ!「アバーッ!」ライト守備ヤクザの頭部に打球が命中、垂直に上昇する。ホームランならず!ランニングでベースに帰るしかない!ニンジャスレイヤーは既に走り出している。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続側転で銃弾を躱しながらホームに急ぐ。死亡したライト守備ヤクザをカバーに入ったセンター守備ヤクザがようやく地に落ちたボールを拾い、フォートレスめがけバックホーム投擲した。「ザッケンナコラー!」 

 一塁を蹴り二塁!「スッゾオラー!」二塁ヤクザがスパイクグローブで殴りかかるのを、ニンジャスレイヤーはフリップジャンプで飛び越し、二塁を踏んで更にロケットスタートした。そして三塁!掴みかかる三塁手を躱す!「「ザッケンナコラー!」」ベンチの控えヤクザがチャカ・ガンを一斉に構える!

「イヤーッ!」走り込むニンジャスレイヤーめがけ、フォートレスが丸太めいたハイキックを繰り出す!「イヤーッ!」前転でこれを回避!潜り抜ける!そこへフォートレスがエルボードロップ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナ……ナムサン! ニンジャスレイヤーの背中に卑劣攻撃が! 

「ヌウウーッ!」背中にビッグカラテを受けたニンジャスレイヤーは死力を尽くして再度前転、フォートレスの体の下を逃れ、巨体に抑え込まれる事だけは回避した。そしてホームベースを踏んだ。フォートレスは飛んできたボールをキャッチし、嘲笑った。「グフフ……また点を取られちまった」

 ニンジャスレイヤーは淡々とヘルメットを拾い上げ、ボックスに戻った。フォートレスは言った。「もうちょっとボールが戻るのが早けりゃアウトに出来たのによ……残念残念」「ちょっとやめないか」アマクダリ審判が儀礼的にフォートレスに注意した。だがペナルティは無い。「グフフ、スミマセン」

「ハァーッ……ハァーッ」「どうした?棄権するか?エエッ?棄権セプクするかよ?」フォートレスが言った。「心配無用だ」ニンジャスレイヤーは答えた。「試合は続行する。最終的に貴様は殺す」ジゴクめいた視線がかち合う。フォートレスはやや目をそらした。「カラ元気出してろや。そして……」

 その時、アナウンスがスタジアムに響き渡った。「ピッチャー、サブスティテュート=サンが復帰しますドスエ」野球ボールを象ったスタジアムカーがマウンドに走ってくる。その上でアグラするサブスティテュートがニンジャスレイヤーを見据えた。フォートレスが嘲笑う。「ここから百倍大変だなァ?」

「ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ」ニンジャスレイヤーはバットを構える。フォートレスは目を細める。「グフフ……楽しくやろうや。お前の残り少ない人生だ」「イヤーッ!」スタジアムカーからサブスティテュートが回転ジャンプし、マウンドに着地した。その腕に紫のエンハンス光が宿った!

「サブスティテュート=サン、不慮の事故による負傷の治療を終え、続投ドスエ」合成マイコ音声アナウンスが、ロウソクで不気味に照らし出されたオニタマゴ球場に響き渡った。ニンジャスレイヤーとサブスティテュートは、あらためて睨み合った。 

「言っておくが、奴は野球のプロ……」フォートレスがニンジャスレイヤーに囁いた。「敬遠球でおとなしく出塁負けしていりゃあ、奴の本気を引き出しちまう事もなかったんだぜ。後悔しても遅い……グフフ」「成る程。姑息な小細工が通じぬ事を学んだか。何よりだ」ニンジャスレイヤーは低く言った。

 フォートレスは話を止めない。「一方俺はスポーツのプロ……ジョックのプロよ。俺は負けた事がねえ。ムカつくナヨ坊はスポーツ権力で必ず叩き潰してきた。わかるか?今の俺は水を得た魚よ。確かに路上でクズにタックルかけて殺すのも面白え……だがスポーツで殺すのは何倍も格別の快楽があるんだ」

 ニンジャスレイヤーはもはや無言。フォートレスの挑発をBGMめいて聴き流すのみだ。サブスティテュートが脚を高く上げた。土煙。そしてボールを投げる!BOOOOM!「ヌゥーッ!」キャッチャーミットに衝撃音!フォートレスは1メートル後ろへ滑った! 

「ストライク!」アマクダリ審判がジェスチャーして叫んだ。「見えたか?見えねえだろ」サブスティテュートにボールを投げ返しながら、フォートレスがニンジャスレイヤーを見下した。「俺でさえ捉えるのがやっとの球よ……恐ろしい奴だぜ」サブスティテュートは再び脚を高く上げた。そして、投球!

 BOOOOM!フォートレスの身体が再び1メートル後退した。「ストライク!」アマクダリ審判がジェスチャーし叫ぶ。「さあ、もう一球でアウトが取られるぜ……」フォートレスが言った。「ちなみにここの審判……今更わかってると思うが、俺らの手下だ。せいぜい贔屓しようのねえプレーで頑張れや」

 サブスティテュートの脚が再び上がった。「イヤーッ!」紫のエンハンス光が薄闇に軌跡を描く!BOOOOM!「イヤーッ!」……ガキィン!「ストライ……エッ?」フォートレスのキャッチャーミットにボールは無い。アマクダリ審判が周囲を見渡し、それから天を見上げた。フォートレスは舌打ちした。

 ニンジャスレイヤーのスイングは豪速球をバットの端で捉えていた。打球は高く上昇し、聖ラオモトのウキヨエに見下ろされながら、スタジアム後方に落下した。「……ファール」アマクダリ審判がジェスチャーして叫んだ。「シマッテコーゼ!」フォートレスがドスの効いた声を発した。 

「イヤーッ!」サブスティテュートが投球!BOOOM!ガキィン!「ストライ……エッ?」アマクダリ審判がボールを探した。やはり頭上!フォートレスは後方スタンドに落ちてゆく打球を見た。それからニンジャスレイヤーを再び見た。フォートレスの眉間にはシリアスな皺が寄っている。「テメェ……」

「実際凄まじい投球だ。しかしながら勝負事には不可解な偶然もまた付き物」ニンジャスレイヤーが淡々と言った。「もう一球投げれば偶然も絶え、ゲームセットできるかも知れん。投げさせてみよ」「……」「尤も、二度ある事は三度四度と続く……そんなコトワザもあるようだが」「テメェーッ……!」

 フォートレスの心中に積乱雲めいた疑心が沸き起こる。(((バカな……見えてきたのか?奴の投球が?この短時間で……ありえねえぜ)))彼はニンジャスレイヤーとサブスティテュートを交互に見た。(((いや……ありえねえ。奴は立っているのもやっとだ。痩せ我慢してやがるだけだ))) 

「ニンジャ持久力……その作用。ニンジャのオヌシに、敢えて説明するまでもあるまい」ニンジャスレイヤーは低く言った。「私に回復の隙を作るのは下策。遮二無二投げさせるがいい。勝ちを逃さぬように……ここまでヤクザ投手にさせてきたようにな」「……何だと」フォートレスは唾を飲んだ。

(((ハッタリだ……ハッタリに決まってやがる)))フォートレスの眉間を汗が流れ落ちた。(((やつは打ちどおしだ!100点以上もホームランを打ち続けてやがるんだ。エルボードロップも手応えあった!だが……畜生!)))フォートレスは投球を急ぐようサブスティテュートにサインを送った。

 これはニンジャのイクサだ。非ニンジャ相手の試合とは違う。ひとたび回復の隙を与えれば、ニンジャのタイプによっては、た易くその持久力を取り戻してしまう可能性すらある。フォートレスはサブスティテュートに急がせる!「イヤーッ!」BOOOOM!ガキィン!「スト……ああ、ファウルです」

「ヌウウーッ!」フォートレスは苛立ち、己のフルフェイスヘルムを殴りつけた。(早く!早く投げろ!投げ続けろ!)サブスティテュートへサインを送る!「イヤーッ!」BOOOOM!サブスティテュートの投球!「まずい!」フォートレスは目を見開いた。モーションが僅かに甘い!……ガキィン!

 ゴウランガ!打球は後ろではなく前へ飛んだ!「ア?アアアーッ!アーッ!」フォートレスが地団駄を踏む!打球はぐんぐん伸びる!センター!観客席へ!うず高く積み上げられたロウソクの中へ打球が落下!途端に液晶パネルに「お祭り」の電光掲示が輝き、続いて「ホームラン」の文字!パワリオワー!

「……」ニンジャスレイヤーは満足げに息を吐き、バットをフォートレスの足元に放った。フォートレスの怒りと困惑に満ちた眼差し!ニンジャスレイヤーは極めてゆっくりと塁から塁へ回った。持久力回復行為である!(((待て……ペースに乗るな。本塁打自体が無意味!結局、奴に勝ちは無い!))) 

 フォートレスのニンジャ第六感はしかし、その希望的観測に警鐘を鳴らした。よくない空気を感じる。ニンジャスレイヤーの謎めいた態度。(((何か隠してやがるか……?何を……?)))フォートレスは眉根を寄せ、歩くよりも遅く挑発的なまでに緩慢なランニングをするニンジャスレイヤーを睨んだ。

 先程までのニンジャスレイヤーは試合の回転を極力速め、激しく打点を稼いでいた。彼は決して休まず打ち続け、全力で走り続けてきた。だが今は?サブスティテュートがマウンドに戻ると、その行動は逆転したように思える。フォートレスの眼差しが濁った。(((わからねえが……がっつり殺すか)))

「やれ。アレを使え」フォートレスはIRCインカムに向かって命令した。当然それは、三塁からホームベースへ向かう直線を臨むアマクダリチームのベンチへの命令である。サイボーグ野球ヤクザ達は速やかに動いた。ガラガラ……ベンチに設営されたポータブル・レールの上を、不穏な鉄塊が進み出る。

 二塁から三塁ベースへゆっくりと向かいながら、ニンジャスレイヤーは敵軍ベンチに設置されたそれを見やる。ALAS!それはアンタイ・ニンジャ・ガトリングガン!ピッチングマシン風の偽装的なペイントが施されてはいるものの、見る者が見れば明らかにそれとわかる!何たる恐るべき妨害行為か!

「君、ちゃんと走って」アマクダリ審判が注意を行った。「試合遅延行為厳禁。マナーが悪い」「……ハイヨロコンデー」ニンジャスレイヤーは三塁ベースを踏み、ホームベースを目指す……BRATATATATATATAT!ガトリングガンが火を吹く!マズル光!ニンジャスレイヤーは加速! 

 BRATATATAT!BRATATATAT!ニンジャスレイヤーを銃弾が襲う!ナムサン!ニンジャであろうと至近距離からまとめて銃弾を叩き込まれれば死ぬのだ!「ピッチングマシンの故障か?参ったぜ」フォートレスが審判に向かって肩をすくめた。審判は「今後は故障させないように」と注意!

 BRATATAT!おお、見よ!しかしニンジャスレイヤーは銃撃からただで逃れはしない。彼は走りながら身体を捻り、何かを投擲した!「イヤーッ!」スリケンだ!KBAM!狙い澄ました一枚がガトリング回転機構を損壊!爆発!KABOOM!「アバーッ!」ベンチのサイボーグヤクザ数名が焼死!

 そのままニンジャスレイヤーはホームベースを踏んだ!「スタジアムの危険を排除しておきました」ニンジャスレイヤーは審判に奥ゆかしく説明した。「グムーッ」フォートレスが苦々しく呻いた。審判は両者を交互に見て、「では試合続行できますね。続行な……」ややオドオドしながら確認した。

「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!今度は再び後方スタンドに落下するファウルボール!「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!……「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン! 

「こいつ……バカな……こいつ……!」フォートレスは邪悪な双眸を驚愕に見開く。そのキャッチャーミットに投球が飛び込む事はない。ニンジャスレイヤーはファウルを打ち上げ続けた。背中や肩から血が零れ、芝の上にパタパタと痕を作る。ガトリングガンの銃弾を完全に回避はできていないのだ。 

「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファール!「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファール!……一打でも打ち違えれば、即座にニンジャスレイヤーの敗北だ!ニンジャスレイヤーは打ち上げ続けた。勝機はどこにある?ラクダの通る針の穴はどこに!どこにある! 

(((どうする?こんな馬鹿げたラリーが続くなどと)))フォートレスは歯噛みした。(((奴は何か狙ってやがる!とにかく阻まねば!敬遠?ダメだ。ビーンボール?ダメだ、奴をカラテのイクサに引きずり出すような行いは逆に自殺行為……スポーツマンシップに則ればこそ勝機が……クソッ!)))

「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファール!「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!……ボールを投げ続け、打ち続ける。投手は治療処置の直後。打者は短時間に大量得点を行った負傷者だ。どちらが音を上げるか。これはイクサだ。イクサに他ならない!


4

ニンジャスレイヤーは己を強いて球を打ち上げ続けた。彼は捨て鉢になってはいなかった。過酷なラリーのさなかにも、彼は極力学ぼうとしていた。より体力消耗の少ない、より安全なファウル打の方法を。必ず勝つために。卑劣なお膳立てを企てたニンジャを後悔させる為に。過去の己に克つためにだ! 

 一方、サブスティテュートには誇りと矜恃があった。それは火鉢の底に沈んだ炭めいて、一度は灰に塗れた感情だ。彼は当初、ニンジャスレイヤーを陥れ、ダシにして、ローコストに勝利を得る事で、生涯を保障しようとした。様々な要因で完全勝利が破られた今、彼は再び一個の暗殺者に立ち戻っていた。

 これは安易な道を取ろうとした己に対するインガオホーである……投げ続けながら彼はそう考えていた。センシであるべし。さすれば道は拓かれん。己のサイバネ腕に力を注ぎ込み、投げ続けながら、彼はなかばゼンめいた境地を見ていた。それは血塗れのイクサの世界にはそぐわぬ感情であったろう……。

「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!……「イヤーッ!」BOOOM!「イヤーッ!」ガキィン!ファウル!……「イヤーッ!」KA-BOOOOOOM!「グワーッ!?」

 爆発したのはサブスティテュートの投球腕である!接合部の過負荷に耐えかね、サイバネティクス筋繊維に断裂!裂け目からは紫色のエンハンス光が行き場を失い、血のように飛沫を上げた。放たれた投球の速度は……ナムサン!遅い……!狙い定めるには十分な程に!「….…イヤーッ!」ガキィィン!

 ホーマーではない。狙うには勢いが弱い。かわりにニンジャスレイヤーの打球は地面を這う魚雷めいて飛んだ!「アバーッ!」ライト守備ヤクザの腹部を打球が直撃!バイオ血液を吐きながらキリモミ回転して吹き飛ばされる。捕球失敗!ナムアミダブツ!そしてニンジャスレイヤーは既に駆け出している!

 一塁!二塁!三塁!「スッゾ!」「スッゾオラー!」「ザッケンスッゾオラー!」「チェラッコラー!」さきのガトリング爆発を生き延びたヤクザ達がベンチからチャカでニンジャスレイヤーをまたも銃撃!「イヤーッ!」側転しながらニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返し殺害!グラウンド安全保持!

 カバーに入ったヤクザのバックホーム投球はまだだ!ニンジャスレイヤーがホームベースをめがける!「ヌウウーッ!おのれニンジャスレイヤー=サンーッ!」フォートレスは後ろ足で土を蹴り、審判の目を塞ぐ!「アイエエエエ!?」これであからさまな反則が可能!「イヤーッ!」タックルをかける!

 この瞬間、忍耐に限界を来したフォートレスは自らのスポーツマンシップをかなぐり捨てていた。だがそれはやはり悪手なのだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは前へ側転し、その勢いをつけてフリップジャンプ!タックルを跳んで躱し、フォートレスの頭頂部をストンピング攻撃!「グワーッ!?」

 頭頂部をストンピングした勢いで更に高く跳んだニンジャスレイヤーは、下のフォートレスめがけフックロープ投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!?」フォートレスの首にフックロープが巻きつく!ニンジャスレイヤーは巻き上げ機構を働かせ、弾丸めいてフォートレスの身体へ突撃落下!「イヤーッ!」

「グワーッ!?」ナムサン!およそ五秒間のうちに二度の杭打ち攻撃を受けたフォートレスの首は、その屈強な肩の間に半ばほどまでめり込んだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはフックを外し、回転ジャンプで飛び離れた。行動不能となった審判にかわり、近くの塁審が走ってきていた。 

「暗くて見えにくいです!」塁審が恐れた。ニンジャスレイヤーはクルクルと回転し、ホームベースに着地した。「危険行為があった。注意されたし」ニンジャスレイヤーは呟き、ヘルメットを拾い上げた。ランニングホームランが成立した。フォートレスは……恐るべきはビッグニンジャ耐久力。

「ヌウウーッ」フォートレスはフルヘルムを剥がして投げ捨てると、自身の頭を両手で掴み、首を引き伸ばした。バキバキと首関節が鳴り、身体形状は復帰した。ヘルムが失われ、ニンジャ頭巾とメンポ(面頬)のみとなった。目鼻からおびただしく出血。憤怒の形相だ。「貴様ァー……」「試合を続けろ」

 主審も目潰し攻撃から復帰し、元の位置へ戻ってきた。再開だ。選手が試合続行不能となれば、速やかに交替を立てねばならない。サブスティテュートはアマクダリ側ベンチで処置を受けている。マウンドには新たなピッチャーヤクザが立つ。持久戦は新たな局面を迎えた。再びギアがトップに入ったのだ。 

「私は勝つためにこのスタジアムに来た」ニンジャスレイヤーは言った。「ゆえに勝つ。覚えておくがいい」「おのれ……」フォートレスは目鼻から血を流しながら呻いた。「ナメるなよ……何を企んでやがる?明日の昼試合の時間まで粘り続けようたってなァ……」「そこまで粘るつもりもない」「何?」

 待機時間リミットだ。ピッチャーヤクザが振りかぶり、投げた!「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」ガキィン!ホームランだ!モニタに「お祭り」の文字が光る!パワリオワー!ニンジャスレイヤーは恐るべき速度で塁を回る。彼はサブスティテュートの復帰をいまだ想定しているのだ!

 ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……「アバーッ!」ピッチャーヤクザがセプクし交替!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!ゴウランガ……おお、ゴウランガ! 

「貴様ァー!なぜ得点する!なぜだ!」フォートレスは吠えた。「無駄な努力!何点とろうが貴様に勝ちは無し!無限に無しの筈なのに!」「否」ニンジャスレイヤーは冷たく見据えた。「言い忘れたが、128点で試合は終わりだ。そういう仕組みだ」「何?」「嫌でもすぐにわからせる。時、既に遅し!」

「ハッタリだ畜生!」否!彼の宣告は確信と決意そのもの!不可解な行動の辻褄が今にして繋がった!間違いなく128点取られれば終わりなのだ!「き、貴様、何故だ?何故終わらない。何故アウトにならない?何故失格しない?完勝ルールなのに!ハンコなのに!俺は!俺はジョックで、ニンジャなのに!」

「オヌシが!ニンジャだからだ!」ニンジャスレイヤーの双眸がカッと見開かれた!彼はジゴクめいて宣告した!「ニンジャを殺す!慈悲は無い!」「アバーッ!」フォートレスが吐血!「スッゾオラー!」飛びくるヤクザボール!ニンジャスレイヤーは打ち返す!ガキィン!パワリオワー! 

 ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……ガキィン!パワリオワー!……「アバーッ!」……「ZBRを!持参せよ!」サブスティテュートが身を起こし、サイバネ医師を殴り倒して絶叫した!「パワードラッグを!」

「ハイヨロコンデー!」持参されたZBRアンプルをサブスティテュートは首筋に躊躇いなく注射した。致死量の瀬戸際だ!腕の交換は間に合わぬ。片腕で投げきるまでだ。彼は暗殺野球のプロだ!「128点だと?くだらん!獲らせはせん!繋げ!勝手な敗北は許さんぞ!」IRCインカムからフォートレスを叱咤!

 破砕した腕にPVC耐久テープを巻いて締めつけ、サブスティテュートはグラウンドへ降りた。審判にタイムを指示し、無雑作にマウンドへ歩いて行く。更なるピッチャーヤクザがセプクし、再び新たなピッチャーに交替したところである。「イヤーッ!」「アバーッ!」その者を速やかに蹴り殺す。

「……」ニンジャスレイヤーは目を細める。サブスティテュートの再復帰に至るまでの大量打点の結果、電光掲示板には127の数字が灯っていた。ニンジャスレイヤーはこのまま容赦無く点を取り切り、UNIXシステムを破壊するつもりでいた。だが、敵は戻ってきたのだ。

 視線が再び衝突する。ニンジャスレイヤーはサブスティテュートの何らかの意地を見て取る。……ただ捩じ伏せ、潰すのみ。「アバッ」フォートレスが血泡を吐く。連続失点でズタズタに損傷したニューロンが吐かせた血だった。サブスティテュートが振りかぶった。先程とは逆の手!投げる!「イヤーッ!」

 マウンドに螺旋状の砂煙が渦巻き、紫色のエンハンス光が闇を割いて残像を描く。やや遅れて、質量が空気を貫く音が鳴り響いた。KDOOOOM!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバットを振った。小刻みにブレながら飛ぶボールは残像と並行し、渦巻くようにキャッチャーミットをめがけた。 

 バットが、ボールを……捉えた!ゴウランガ!だが、ボールは飛ばない!見よ!恐るべき投球はシュルシュルと音を立てて回転し、バットを押し戻し始めたのである!「ヌウウウーッ……!」ニンジャスレイヤーが目を見開く。その目にジゴクめいた赤黒の光が灯り、装束越しに縄めいた筋肉が浮き上がる!

 押し戻し…押し返し…押し戻し…押し戻し…押し戻し…押し返す!「イイイイヤアアアアァーッ!」ニンジャスレイヤーはバットを振り抜いた!赤黒の炎めいた残像!打った!「アバーッ!」フォートレスの脳血管破裂!「サヨナラ!」爆発四散!打球は地を這うように飛ぶ!その先にサブスティテュート!

「イヤーッ!」サブスティテュートはグローブで赤黒の炎を纏う打球を捉えた!ナムサン……打球はグローブの中で回転を止めず……否、いまだその回転の勢いを増し続ける!二人のニンジャの投打力が乗算された打球はグローブをそのまま焼き切る!「グワーッ!」破壊衝撃が腕を伝う!「グワーッ!」 

 ボールはサブスティテュートのサイバネティクス腕を抉り削り取りながら這い登り、胸部を貫通して背中から飛び出した!「グワーッ!」サブスティテュートは両膝から崩れ落ちる。突き抜けたボールはそのまま等比級数グラフじみた飛行軌道を描いて上昇し、ドーム天井の聖ラオモト画を貫通した!

 ゴウランガ!ゴウランガ!ドームを突き破ってのホームラン!モニタに「お祭り」の表示が灯り、一瞬後、「おかしな」の表示に切り替わった。そしてカラーバーに。サブスティテュートの「サヨナラ!」という叫びはディストーションのかかったパワリオワー音に掻き消された。ガガ、ガガピガガー!

 ナムサン!球場UNIXシステムは128点などという点数を想定していない。計算システムがオーバーフローし、モニタが火を吹き、そして爆発した。KABOOOM!KABOOOOM!一回表、128-0。その表示がモニタに正しく表示されることはなかった。KRA-TOOOOM! 

「スッゾ……」「退避重点アバーッ!」アマクダリベンチが崩落し、サイボーグ野球ヤクザ達が押し潰されて死んでゆく。ガガピガガー!ガガピガガー!狂った天使ファンファーレ騒音が、死にゆく者らを鎮魂する。 

 この瞬間、球場を遠く離れた某所、ナンシー・リーは結わえた髪をほどき、美しい横顔にUNIXモニタ光を受けていた。球場のシステム脆弱性をバックドアに、彼女は闇サーバーシステムに侵入。ハンコと筆跡データを痕跡一つ残さず消去し、エミュレイターという名のニンジャのIP情報を押さえた。

「流石ね」ナンシーは微笑んだ。「本当に128点取るなんて。一人で」部屋の反対側の椅子で横になるサイバーゴスの少女を見た。床に落ちた毛布をかけ直してやった。「奴らにはまだまだ後悔させてあげられるわよ」エミュレイターの命は24時間保つまい。デッキがディスクを吐き出し、闇が訪れた。

 高く、高く、打球は球場上空を飛び、数区画先に飛んだ。ゴゴゴウン……ゴゴゴウン……崩落音と狂ったUNIXサウンドの中、ニンジャスレイヤーはバットとヘルメットを投げ捨てた。そして、一塁、二塁、三塁と踏んで回った。最後にホームベースを踏むと、そこで震えているアマクダリ審判を見た。

「避難せよ」ニンジャスレイヤーは言った。アマクダリ審判は失禁しながらニンジャスレイヤーに尋ねた。「一体何が起こったんです?」「……」ニンジャスレイヤーは破れたドーム天井から差し込む朝日を見上げた。「一回表、コールドゲーム、勝利チームはニンジャスレイヤー。……以て試合終了だ」

ニンジャスレイヤークラシック再放送プログラム:
第3部「不滅のニンジャソウル」より:
【ノーホーマー・ノーサヴァイヴ】終


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