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【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】#4

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー

S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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 ファオー。通信確立ファンファーレが鳴り、モニタの01ノイズのモヤが晴れて、八卦のテーブルが映し出されると、トジカタ・ウルフは息を呑んだ。八人が座する八卦の卓。その中央、卓上の空中に、九人目がアグラ状態で浮遊出現したのである。『ドーモ。トジカタ・ウルフ=サン……』

「ウ……!」老ヤクザの眉間を、汗の粒が流れ落ちた。電子通信でありながら、脳に直接語りかけるが如き迫力であった。トジカタは引退年齢を重サイバネで上塗りしてまで現役にしがみついてきた鬼気迫るヤクザ・オヤブンだ。シュラバ・インシデントを踏んできた回数は相当なもの。だが、怯んだ。

 アグラ姿勢で浮遊したまま、偉丈夫は合掌し、アイサツした。『ヘイ・ジウは貴殿を歓迎します。私がグランドマスター・ゼツボウです』長く白い美髭を指で梳き、こちらを見据える目に、トジカタは震え上がった。トジカタの首から下は重サイバネ置換され、刺青はエンボス。それでも総毛立つ思いだった。

「依頼につきましては、事前に、ですな……」トジカタは声を潜めた。オヤブン邸の自室、防弾・防音処理は完璧であったが、それでも、万に一つがあってはならない。この動きを部下に知られれば、ソンケイを失う事になるからだ。先方も心得たものだった。『ご安心めされよ。カネで結ばれし契約は絶対』

「情けねえ話ではありますわ。女子高生がヤクザクランに上等して、それをどうにも出来てねえ現状。示しがつかねえ。ただね……」トジカタはキセルを吸い、虚空を睨んだ。「……だからこそ、頼みますわ。影で糸引いてる連中まで、ネコソギお願いする。そういう話をしてるンです」『善哉』

「ウチは老舗のヤクザでね。手を組めば新参のアンタらにもメリットある筈だ。エメツなんていうおかしなものが出てきてから、どうもうまくいかねえ。だけどな、意地とリスペクトってもんがあるんですわ。ワシらには。昔からサイバネで、ビッとキアイ入れてやってきた。だから……」『話は、もう宜しいな?』

「ンッ、あ」『八卦の巡りが、今回のセンシを示した』ゼツボウはもはや構わず、瞑想的に宣言した。『イヤーッ!』八卦の卓の一角に座っていた一人が、座ったままの姿勢で高く飛び上がり、一回転ののち、椅子の背に直立した。恐らくはそれが、今回派遣される者であった。トジカタはキセルを落とした。


◆◆◆


 集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動! 最強高機動!「グワーッ!」脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!「アバーッ!」「アババーッ!」ショウジ戸に苦しむ影が反映し、血飛沫の赤がそれを追った。リンホはタタミの上を走りながら、斬って斬って斬りまくる。

「アーレエエ!」「アレエエーッ!」蹴り開けたフスマの向こう、半裸のオイランがまろび出て、廊下に逃げてゆく。だが彼女らは実際のところ、リンホにカネで買収されている。強奪したヤクザマネーをこのオイランハウス「惑乱の後宮」に注ぎ込み、武闘派ヤクザのボルタ・ガンジを呼び寄せた。

「ナ……ナニチャブッタコラ!」フンドシひとつ、巨大な盃でサケを啜っていたボルタ・ガンジは、やや曖昧な意識下、襲撃者を睨み、飾られたカタナを掴んだ。「モットシテクダサイ」傍らでは、オイランドロイドが何事もないようにボルタにしなだれかかる。ボルタはその首根を掴み、投げつけた。

「クダラネーヨ!」リンホはオイランドロイドを真っ二つに叩き斬った。予知能力じみて、ボルタの動きは手に取るように見えた。ニューロンリンク・ブースターだ。サイバネアームとサイバネアイに追加のドライバをインストールし、反応速度を高めた。これでもう、ヘタを打つことはない。

「ナマッコラー!」ボルタは一瞬でリンホの眼前に居た。関節から蒸気を噴射。肩の外皮が持ち上がり、露出したシリンダーがUNIXライトを光らせる。背中からのプロジェクションが、泳ぐネオン鯉と「生きる道」のショドーを天井に描いた。カタナとカタナがぶつかりあい、刃越しに二者は睨み合う。

 ボルタはハウリンウルフきっての残虐ヤクザ。切り込み隊長である。凄まじい膂力だ。「ドナメンジャネーゾ!」「ナメンヨ!」リンホは叫び返した。「くっせえレトロなサイバネしやがって! アタシは命削ってんだ! 覚悟の格が違うんだ……100年早いンだよ!」リンホのサイバネアイが燃え輝いた。

 ガギギギ。ボルタの金属関節が軋み音を鳴らし、リンホは圧され始めた。「調子コイたガキがァ」ボルタは歯を剥き出した。「俺のサイバネは生きる道。暖かみがある……血脂のヌクいニオイだ。汚えエメツになんぞ負けねえ!」背部蒸気噴射! 圧が強まる! リンホは身を反らせて耐える!「クウッ」「背骨折ッたる!」

「ああああ!」リンホが苦痛の叫びをあげると、ボルタは残虐な破壊の予感に身を震わせた。……カキン。乾いた音は、リンホの前腕部が発した音だった。装甲が剥がれ、内蔵型のチャカ・ガンの銃口が露出していた。「な……?」BANG! 至近射撃がボルタの胸部を花開かせた。

「アバーッ!?」血とオイルが噴き出し、リンホのレインコートにも容赦なく降り掛かった。「こンのォ……」リンホはカタナを逆手に持ち直し、後ろに数歩たたらを踏んだ。己を強いて、よろめきながら、ボルタを壁に追い詰める。ボルタはマッタした。「カネなら……」「イッテーンダヨ!」突き下ろす!「アバーッ!」

 戦いは終わった! リンホは脂汗を流し、ボルタの死体の横でタタミに手をついた。「いッた……かも……これ」這うように、廊下を目指す。ターン! 血塗れのショウジ戸が開いた。リンホは見上げた。泣きながら、モニコが抱きついた。「い、痛いッつうの……」「大丈夫じゃない! 大丈夫じゃない!」

「マジでヤバイから」リンホは制止しようとした。「ど、どうなってるの?」「腰がちょっと」「ゴメン! ゴメン、リンホ=サン! でも……ううッ……!」嗚咽しながら、モニコはリンホに肩を貸した。オイランがチョウチンを翳し、廊下をシズシズと走ってきた。「大丈夫ドスエ?」「殺ッた、殺ッた」

 リンホはピースサインと笑顔で応じた。「それより完全に店ダメにしちゃったか? 悪りぃな、ハハハ……!」「いいえ、お釣りが出るドスエ」オイランは首を振った。「ボルタのカスは店の子にヒドい事をする奴だったからね。せいせいしたわ」そして、死体に唾を吐きかけた。


◆◆◆


「シアツのようにはいかないね」埋込式サイバーサングラスの闇医者は、施術台にうつ伏せになったリンホを見ながら、PVC手袋を嵌めた。「まあ、わかってるだろうけどね」「わかってるッつうの」リンホは溜息をついた。「カネ払ってンだ。文句ねえだろ。最高のアサシンに最高のサービスをしろ」

「アサシンねえ?」闇医者はマスクの下で、笑いとも訝しみともつかぬ表情をした。そして、付き添いじみて部屋の隅で身を固くして座るモニコを一瞥した。「アサシンねえーェ?」「ナメンジャネー」モニコは顔を上げ、闇医者を睨んだ。「今すぐテメエの心臓、全摘してやろッか、ア?」

「オーホホホ!」闇医者は笑った。「やめなよッて! 文句無いし、疑ってなんかないッたら!」「そんならおちょくってる場合じゃないッてわかるよな?」モニコは既に銃を構え、闇医者に定めている。闇医者は緊張をごまかす為か、本当に面白いのか、声をあげて笑った。「イーヒヒ! わかったから!」

 闇医者は身を屈め、リンホの背筋の上、採寸するように指をスライドさせた。「若いッてのはイイね、後先考えないからね。年をとるとそうもいかねンだわ」「なんでもいいよ。早くやンな」リンホが促す。闇医者は咳払いした。「脊椎ッてのはクリティカル部位だから、まずは補強する。インプラントで」

「なんでも良いから早く直せ。生身の時より強くしろよ」「ッたく急かすねえ。告知事項ッてのがあるだろうが」「アタシの相棒が読む。だよな!」「う……うん」モニコは膝の上でUNIXを開いた。「ちゃ……ちゃんと見てッかンな! ナメンナヨ!」

「おうおう、おもしれえな」

 新たな声だった。

「アイエッ!」モニコは反射的に悲鳴をあげた。天井よりも背の高い、ヤクザスーツの男が、ぬう、と入ってきたのだ。身を屈めた男は全身から獣じみた殺気を立ち上らせていた。「そいつが噂のアレか……アサシン女子高生か、アーン?」「ア……ドーモ、ギリ=サン」闇医者は「ギリ」にオジギした。

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