【ニャンニャスレイニャー外伝:キョート・ヘル・オン・ニャンコ】
(ニャドー奥義! タツマキニャン!)(バカな!?)
ガタン……ガタタタン……幌馬車の震動が、クロマルの屈辱的な敗北の夢をより一層陰惨なものに変えていた。
(ナアアアアオオオオオーッ!)
「フギャ……フギャギャ……」クロマルは寝顔をしかめた。火炎車めいて体当たりをかけるニャンニャスレイニャーに十八回のネコパンチを叩き込まれ、決定的な敗北を喫した記憶が、彼を苛むのだった。
「ニャラレ……タ……」
「否」超自然の声が否定した。クロマルは訝しんだ。目を開けると、幌馬車の中、彼を覗き込むのは金と銀の招き猫だった。
「貴方の戦いはこれからです」「左様、これからが貴方の戦いです」
「いったい貴様たちは……」
招き猫の小判には「鶴」そして「亀」と書かれている。
「キョート公園。そこに新たな闘争の地があることでしょう」「貴方のニャラテあらば、そこで成り上がるのも造作の無き事」「くれぐれもお気をつけなされ」「運命のニャンニャよ……!」
「フギャーッ!」
うなされたクロマルは跳ね起き、幌馬車から飛び出した。草むらをゴロゴロと転がり、受け身を取って起き上がると、彼の目の前には巨大な公園が広がっていた。看板には「キョート公園」と書かれていた。
「夢で見たのと同じ……」
クロマルは訝しんだ。しかし、幌馬車は既に走り去ってしまった。タンブルウィードが風に乗って転がっていった。クロマルは毛づくろいをして気を取り直すと、キョート公園に踏み入った。あらたな闘争の予感を胸に秘め……!
【ニャンニャスレイニャー外伝:キョート・ヘル・オン・ニャンコ】
いにしえの平安時代の文化を変わらず現代に伝えるキョート公園は、碁盤の目のような道路と五重塔によって整然と整えられ、気品と奥ゆかしさに満ち満ちている。だがそれも表層のこと。一皮剥けば、そこはマタタビ中毒猫と奴隷労働猫の苦役が溢れる地獄である。そしてその地獄に君臨する存在、それは、ニャンニャ……。平安時代から日本の猫社会をニャラテで支配してきた闇の野良猫たちであった。
「ニャイエエエエ!」猫カフェに下卑た笑いとオイラン猫の悲鳴が響き渡った。オイラン猫を取り囲むのはゴロツキめいた粗暴な猫数匹と、その頭目たる片目のニャンニャであった。
「ケケケ、その首輪の下がどうなっているかしっかり見てやる!」「オイ、ちゃんと押さえとけよ!」「ニャイエエエエ!」「ニャヒヒヒ、たまんねえ!」「誰か! ニャイエエエエエ!」
「少しやめないか」見かねた老猫が止めに入ろうとしたが、凶暴な片目のニャンニャがにらみを利かせ、「ア? 俺らと殺し合いしたいッてのか?」と凄むと、「い、いやあ、少しアメ舐めないか、と聞いただけで……」モグモグと言い訳しながらどこかへ行ってしまった。
店内の猫たちは怯えた表情で目をそらし、まるでその騒ぎが初めから存在していないかのように振る舞う事に必死だった。「ニャイエエエエエ!」「ニャーヒヒヒ!」ニャムアミダブツ! だかこれもこの暗黒キョート公園の暗がりにおいてはネコマンマ・インシデントなのだ!
而してその時。逆光に新たな入店猫の影が揺れた。ただならぬアトモスフィアを持つ黒猫であった。ニャンニャである。黒いニャンニャはバーカウンターの椅子に飛び乗り、ニボシとミルクを注文した。
たちまち店内に緊張が漂った。「ニボシだと?」 オイラン猫に狼藉しようとしていた片目のニャンニャは聞き咎めた。「気取りやがって」
「……おやじ、におうな」黒猫が呟いた。「これがキョートの空気とやらか?」「エ……ア……」バーテンは言葉に詰まった。黒猫は続けた。「違うな。かりそめの力に溺れて調子に乗っている駄ンニャ(註:駄ニャンニャの事)のニオイだ」
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