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【スクールガール・アサシン・サイバー・マッドネス】#2

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー

S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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『集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動! 最強高機動! 脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!』

 ヒリヒリ割れた叫びのボーカルを引き継いで、高音をいからせたベースラインが迫り出してくる。ベオベベオベオベベオ! ノイズパンクバンド「夏のあなた達」の名曲「最強高機動」だ。

 ピアス型の骨伝導イヤホンを通し、フルボリュームの「最強高機動」を鳴らしながら、リンホの歩みは早歩きに、そして疾走になる。リンホは走りながら笑った。そして跳んだ!

「オラッ!」小道を挟んだ向かいの雑居ビル一階、精肉店の軒先のビニールテントの上に落下! 突き破り、着地!「アイエエエエ!?」精肉サンプルが並ぶガラス・ディスプレイの向こうで、店主が悲鳴を上げた。

「ア?」ヤクザは店先で、茶封筒に入った新円素子を、その場で確かめていた。顔を動かし、横を見る。着地したリンホは既に銃口を向けている。ヤクザは……「オセーンダヨ!」リンホは叫び、引き金を引いた。BLAM!

「グワーッ!」ヤクザの左耳とこめかみが噴き飛んだ。だが生きている。闘志もある。「ドカマテッパダラー!」ヤクザはサイバーサングラス表面に【どちらの鉄砲玉ですか】と表示し、叫び返す。さらにスーツの肘が蒸気噴射で弾け飛び、右拳が脱落。旧式の腕内蔵ミニガンが迫り出した。「タマトッタル!」

「トレネンダヨ!」リンホは拳銃を投げつけながら右腕を繰り出していた。ヤクザの表情が驚愕に歪んだ。BRTTTTTT! 銃口を逸らされたヤクザミニガンは虚しく精肉店の店ガラスを破砕。赤肉サンプルが蜂の巣になる。リンホの右腕はヤクザの動きより遥かに速かった。UNIXライトがサイバネアームの筋組織の切れ目を走った。

「な……」KBAM! ヤクザの腕部ガンが爆発した。リンホの右腕は凄まじい握力を発揮し、1秒で旧式サイバネを機能停止に追い込んだのだ。そして2秒後、リンホの右腕は裏拳となって、ヤクザの顔面を砕いていた。『最強高機動! 脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!』「アバーッ!」死亡! 転倒!

「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」『リンホ=サン! 他にも来たよ!』「見えてンだよ」リンホはモニコの遅い増援警告に応答し、背中に負ったカタナを鞘から抜いた。困惑しながら向かってくる若いヤクザ二名。どうせ殺人経験などない。「ちょうどいいよ! まだコイツの切れ味試してなかったかンな!」

 リンホは水平にカタナを構えた。血に飢えた刃の表面が微細な振動を纏い、唸りをあげる。リンホは走り出す。若いヤクザ達は仰天した。当然だ。女子高生が全開の殺意と共に向かってくるのだ! 集合的殲滅全体! 高揚感撃滅満載! 最強高機動! 最強高機動! 最強高機動! 脳にブチ込んでくれようか! 頭蓋!


◆◆◆


「地域に税」「わたしの武士道」「不如帰」。ショドー授業である。書き終えた生徒は勇んで立ち上がり、黒板にマグネットで縦長のワ・シを貼ってゆく。モニコは今、「注意一秒」と書いたワ・シを貼った。そして、いまだショドーと格闘中のリンホを見た。頬に墨がついている。

 アタバキ・ブシド・ハイスクールでは科目ごとに授業クラスがランク分けされる。リンホは成績が悪いので、モニコと同じ教室になる事は滅多にない。このショドーの時間だけだ。そもそも、モニコはリンホと友達同士だったわけではなかった。二人が初めて会話したのは、リンホの「最初の襲撃」の時だった。

 放課後、裏路地のさらに裏、地下ゲームセンターへ入っていったリンホの背中を追い、意を決して階段を降りたモニコは、思いのほかすぐに「コトを終えて」出てきたリンホと正面からぶつかりそうになった。リンホは血に塗れ、サイバネ置換された右腕は小刻みに痙攣し、指の開閉が止まっていなかった。

(なんだお前。ウチの学校かよ)制服のままだったモニコを見て、リンホは首を傾げた。そして苦しそうにうめき声をあげた。どう見ても右腕のサイバネの不調だった。(その腕!)(あ?)(グリッチだ。グリッチ起こしてるよ! どこでつけたの? 先週?生身だったよね?)(何、お前……)

 モニコはリンホを近くの時間貸しUNIXルームに引っ張り、腕部サイバネのドライバにアクセスして、チューニングを行った。リンホのサイバネアームは闇市でずさんに取り付けられたものだった。炎症を起こしていたし、ニューロン同期も出来ていなかった。どうしてそんな命知らずな事をしたのか。

 さいわい、調整ぐらいならモニコにも出来た。リンホは素直に喜び、事のあらましもあけすけに話した。

 そう――モニコはリンホのショドー内容を見る――「復讐」だ。

 リンホの父は優しく強かった。ケンドーの稽古をつけてくれた父の姿を、リンホは優しい記憶として大切にしている。だがある時を境に父は酒に溺れ、仕事を放棄し、咎める母に暴力を振るった。家の窓や扉に貼られる「金返せ」の落書き。世界が崩れる感覚。ほどなく父は忽然と姿を消す。無責任な蒸発。

 父はかつて厳格だった。リンホには、虹彩サイバネどころかピアスや髪染めも許さなかった。それが蒸発だと? とんだファック野郎! ……父が居なくなったのが、単なる蒸発ではなかった事を知ったのは、リンホが4個目のピアスを開けた夜だった。

 リンホの父は、違法なトロ粉末先物取引で破産した。それは違法取引であるばかりか、実際詐欺であり、絶対に破滅するスキームになっていた。その手引をしていたのが「ハウリンウルフ・ヤクザクラン」。小金持ちの市民をターゲットにした闇のシノギであった。

 ブシドーを重んじる武家の末裔であった父は、追い詰められた末、このままでは祖先に顔向けできないとの理由からヤクザクランに単身殴り込みをかけ、帰らぬ人となったのだ。ある夜、突発的な怒りに任せ、形見のコケシを投げつけ壊したリンホは、中に隠された遺言書を見つけた。全てが書かれていた。

(そうだったのですね、お父様……)モニコの前で、リンホは演技的に目を伏せ、震えながら呟いてみせた。そしてカッと目を見開き、ダブルファックサインと共に舌を出し、吐き捨てた。(ッて納得するワケ、あッかよな? クソオヤジ野郎。ママも心労で倒れたし。マジ許せないけど、親父死んでるしよ)

(それで、まさかそのヤクザクランに……攻撃……してるってこと……?)(ア? そうだよ。復讐だよ復讐。わかンだろ? クソオヤジがカスになったのはそのヤクザどものせいなんだから、そいつらをブッ潰すンだ。なんか間違ってるか?)(お母さん心配するよ)(多分もう目を覚まさないよ。ママは)

 バン! リンホが勢いよく黒板にワ・シを叩きつけた音で、モニコは白昼夢から我に返った。「復讐」のショドーを押さえつけながら、リンホがモニコを見て、快活に笑った。一点の曇りもない、勝ち気な笑顔だった。「だよな!」「……!」モニコは頬を上気させ、狼狽した。


◆◆◆


「ザッケンナコラー!」「グワーッ!」「スッゾオラー!」「アバーッ!」「チャルワレッケオラー!」「アババーッ!」「……」「……」ハウリンウルフ・ヤクザクランのグレーターヤクザ、ドドブナは、天井から吊るされた手下ヤクザを執拗に金属バットで打擲していた。

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