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S4第3話【マスター・オブ・パペッツ】#6

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 ゴーン。ゴーン。ノイズ混じりの鐘の音が、天に、地に、ニューロンに鳴り響き、頭上に黄金の立方体の冷たい輝きが垣間見えるなか、ニンジャスレイヤーはしめやかに進んだ。網膜にハレーションする強い輝きが全てを透かして見える。それが今回の狩人の方角をしめすのだ。

 KOL社実効支配区画、マジェスティック・ディストリクトの英国式巨大庭園は黒く静まり返っている。ニンジャスレイヤーの行く手を、花崗岩のゲートが阻んだ。ニンジャスレイヤーはゲートに手をかけ、マスターキーめいて破壊した。ゲートが戴く水盤が傾き、水飛沫が落下し、濠に波紋を生じた。

 ズドドド、と音を立て、傾いた水盤から水が流れ出し、さながらニンジャスレイヤーを迎えるがごとし。ゲートを押し開いたニンジャスレイヤーは、眼前の巨大な建造物……あるいはモニュメント……を見上げた。それはまっすぐに天を衝く柱を囲む、幅の極めて広い螺旋階段だ。タワー・オブ・ハーモニー。

 ニンジャスレイヤーはスタスタと螺旋階段を上がり始めた。ゴーン……ゴーン……。鐘の音はこの世の音か、あるいはオヒガンより漏れ聞こえるものか。ニンジャスレイヤーは前方頭上を睨みながら、急ぎもせず、躊躇いもせず、ただ、上がり続けた。螺旋の段は無限めいて彼の前方に現れ、上へと導く。

 螺旋階段は左回りであるがゆえに、柱……あるいは塔は、常にニンジャスレイヤーの左に在る。柱の装飾はまるで歯車のようであり、彼が前進する速度に合わせてそれ自体が回転しているようにも錯覚する。ゴーン……ゴーン……。彼の足下には万色の星々が輝く。ネオサイタマのネオン明かりである。

 柱の頂上は屋根のない円盤状の足場となっていた。ニンジャスレイヤーはエントリーした。0100101……鐘の音がノイズに乱れた。ニンジャスレイヤーは見上げた。頭上の夜空に、彼の戦いを悠然と見守る人智を超えた古代ニンジャ達の影が垣間見え、すぐに消えた。砕けた月が光っていた。

 視線を戻したニンジャスレイヤーは、そこに立つ影をみとめた。「コトブキ」彼は呟いた。厳かな裁定の女神じみたドレス姿のコトブキは、ニンジャスレイヤーを見、無言で頷いた。それから、ゆっくりと首を巡らせた。彼女を挟んだ向こう側の端に、ほの白い影が佇んだのである。美少年であった。

「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。我こそはカリュドーンの狩人、マークスリーである」美少年はアイサツした。ニンジャスレイヤーは眉間にしわを寄せ、アイサツを返した。「ドーモ。マークスリー=サン。ニンジャスレイヤーです」KA-DOOOM! 西の空の曇天に稲妻が唸った。

 マークスリーはコトブキを見、優雅にアイサツした。「来てくださると思っていました。コトブキ=サン。我が決意をしたためし手紙、読んでいただけたのですね」「はい。ピザタキに届いていました」コトブキは答えた。「今回のイクサの行方、わたしがタチアイニンします」「本当ですね!」

「ただし」コトブキは語気を強めた。「勝ってわたしをモノにするみたいな事を言ってましたが、フザケルナと言わせてもらいます。カリュドーンの儀式とわたしの意思決定には合理的関連性が存在しません。わたしをナメないように! 以上です」KADOOOM! 稲妻が閃いた。マークスリーの顔は影になり、窺い知れない。

「……構いませんよ。時間は無限にある」彼は答えた。「この獣を仕留めた後、お互いに話し合う時間は幾らでも用意されているのですから……!」「わたしは公平に見届けます」コトブキは言った。「正々堂々戦ってください」

「……やり取りは終わったか?」ニンジャスレイヤーが低く言った。コトブキは頷き、一歩下がって、チョップ型の手を前に差し出した。ミシミシと音が鳴った。マークスリーとニンジャスレイヤーが互いの軸足に重心をかけ、円盤状の花崗岩が悲鳴をあげたのである。KA-DOOOOM! 雷鳴が轟いた。西の曇天が真上にまで張り出し、砕け月を隠していた。


◆◆◆


 マルノウチ・スゴイタカイビル屋上、四方のシャチホコ・ガーゴイルに囲まれて、五人の狩人は同じ雷鳴を聞いていた! ブラックティアーズの水晶球から、対峙する二者のさまがホロ投射されている。「あのガキらしいキザな場所に呼び出したものだ!」アヴァリスは嘲笑した。「決闘だと? 笑わせる」

「特に規定に反する行いでもない」ブラックティアーズが言った。サロウは興味深げに瞬きした。「きっと、あの子なりに譲れないものがあるんじゃないかな。このイクサを自分自身のものとして受け止める為に……フフッ」「あのウキヨは何だ? 審判? いや……タチアイニンのようだが」と、メイヘム。

「何でも構わん」フードを深く被ったニンジャがくぐもった声を出した。「ウシミツ・アワーの鐘とともにイクサは始まり、どちらか一方が生き残り……それが獣ならば次の狩人の出番。そういう事だな」「アンタも大変だよね、親分に急に呼び出されたんでしょ?」サロウが気遣った。

「主の命は絶対……」ニンジャは目を閉じ、冷たく言った。フードの闇の中で額の第三の目が開き、サロウを見た。「……それは貴様も同じであろう」サロウは笑い顔のまま表情を引きつらせた。「やはりマークスリー=サンはジツ無しか」アヴァリスは呟き、フードのニンジャを見た。「お前はどうだ?」

「……」第三の目が閉じ、双眸が再び開いた。「貪欲で油断ならぬニンジャと聞いているぞ、アヴァリス=サン」「その評判は実際その通りだ。ククク……その目がジツの要か、ウーガダル=サン? 焦って隠さずとも、ここでお前を喰らいはしない……」

 言葉とは裏腹に、アヴァリスの暴の気が膨れ上がった。フードのニンジャは対抗するようにニンジャアトモスフィアを強めた。それを打ち消すように、ブラックティアーズは水晶球を強く輝かせ、再び狩人と獣に注意を向けさせた。ホロ映像、ウキヨが差し出した手を……上へ振り上げた!


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