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S4第1話【ザ・シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム】分割版 #2

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 ニンジャになる以前から、サロウは抜群に「ハヤイ」だった。ベルリンのハッカー・コミュニティにおいて、サロウが畏れられる存在になるまで、そうはかからなかった。単純な事だ。自分が三番手であったならば、一番手と二番手のハッカーの脳を焼けば一番になる。

 一番手の「ゲルハルト・ゲルハルト・ゲルハルト」のニューロンが千千に破れて01消滅するさまを、極度のスローモーションの感覚の中で見つめた。それがサロウに訪れた最初の絶頂の瞬間だ。翌朝、彼はベルリン一番の娼館のオネイ・チャンを全員呼びつけ、プールサイドで天国そのものの体験をした。

 慣れない事は、するものではない。なにしろそれはサロウが生まれてはじめて自部屋から出た瞬間だったのだ。その日の正午にはジゴクに落ちた。ゲルハルト³はカタナ・オブ・リバプールの紐付きであり、オーバードーズ寸前までキメまくっていたサロウは容易にガラを押さえられた。どうやって逃げ出したのかは覚えていない。

 カタナの武装社員が頭を爆発させて彼の周囲に倒れていた……そんな映像がPTSDとして残っている。どうやって殺したのか? じきにわかった。彼はそのときニンジャになったのだ。その代償は大きかった。原理はわからぬが、実際彼はそのときからLAN直結の力を失った。しかし失意のままにセプクする暇もなかった。彼のニンジャソウルが助けてくれた。

 人間のニューロンというのは、ローカルコトダマ空間なのだから、ちっぽけな脳漿のファイアウォールを破り、ジャック・インして貫通すれば、そこを出発点に、広いコトダマ空間に飛び出す事ができる。UNIXにうまく触れなくなっても、このやり方ならば代替としては十分すぎるほどだ。彼は自部屋を離れ、外の世界へ、ネットワークの大海へ、再び踏み出した。

 この異質な力は何によって与えられたのだろう。サロウは知りたくて仕方がなかった。ニンジャソウル、それはすぐに理解した。では、何がそれを与えたのか。やがて彼が引き寄せられていったのは、「祝福」を求める探求者達の互助コミュニティだった。かつての中心人物たちは軒並み姿を消しており、継承が断絶したまま新参の者らが集まった、廃墟の再構築めいた電子の村だった。

 サンズ・オブ・ケオス。それが電子コミュニティの名前だった。素敵な名前だ。彼はそう感じた。神秘の感覚を共有する者たちのもとへ、祝福者が降臨し、力を与える。名を「サツガイ」。ああ。そういう事か。サロウは理解した。つまり、サツガイがニンジャソウルをくれたのだな。二度目の絶頂が訪れた。

 サンズ・オブ・ケオスの者らはサツガイの降臨を期待し、情報を交換し、様々な儀式や実験に明け暮れていた。集団ザゼン、ボン・ダンス、サバト、拷問。やがて……トランスの果て、コトダマ空間の彼方で、実際に、超自然の電子揺らぎに触れる者たちが現れ始めた。サロウは焦った。俺にも権利がある。

 数え切れぬジャック・インを繰り返し、治安維持の為に出動してくる企業ニンジャを返り討ちにするなかで、彼のジツはどんどん磨かれていった。探求の果て、彼は他のサンズ・オブ・ケオスの連中が電子揺らぎとして垣間見てきた「存在」の「そのもの」を見出した。それはサツガイではなかった。「サツガイ? まあ違うけど、大した問題じゃない」女の電子姿は笑った。「アタシが答えをあげる」

「誰……?」「アタシはオモイ・ニンジャ」女の目の中には瞳が3つあり、艶めかしい唇はピンクだった。「イイ? アタシの人格と外殻は、このイカした女のものをもらったんだ。平和的にね。そうしないとアタシが存在するのは難しい。アブストラクト過ぎるから。この女にも名前はあったけど、要らない」

 横並び。正三角。縦並び。逆三角。オモイ・ニンジャの瞳の位置は移り変わり続ける。「アンタ、なかなか見込みがある。自力でアタシのところまで来たから。撫でてあげる」「エ」オモイ・ニンジャは撫でてくれた。「ファックしてあげる」「エ」オモイ・ニンジャはファックしてくれた。三度目の絶頂。

「アンタのする事が、アタシのためになる。ね」「ええと……」「アタシがアンタのボス。わかるね」「……わかる」「タノシイよ。アタシと一緒に冒険しよ」「……そう、だね」……めくるめく日々。そしてその先端に、ネオサイタマがあった。

 ストラグル・オブ・カリュドーン。妙な儀式だ。わけもわからず、彼は街を彷徨った。他の狩人たちにはいずれ出逢う。それまで頑張りな。……それがオモイ・ニンジャの啓示だった。

 ネオサイタマは過酷な街だ。ダサいやつは狩られる。だからって、殺してばかりいれば長居は出来ない。彼は髪にネオン遷移処理を施し、ファッションをキメた。いい街だった。

 星辰が定まったのはほんの少し前。マルノウチ・スゴイタカイビルの屋上、彼は他の六人のニンジャと相まみえた。四隅のシャチホコ・ガーゴイルが凄まじかった。六人は震え上がるようなキリングオーラを漂わせる恐ろしい奴らで、サロウを邪険にしたが、怯んではいられない。自分もまた……狩人なのだ。

 ブラックティアーズが儀式のルールを告げた。ストラグル・オブ・カリュドーン。まずは獲物たるニンジャスレイヤーに印を打つ。これは参加する全ての狩人にて執り行う。他の狩人は友達にはなりえない存在だったので、サロウはやや落胆した。むしろ競い合うライバルであり……場合によっては彼らから身を守る必要すらある事を知った。

 そして、ゆえに、この局面で容易に自分の手の内を明かすわけにはいかない。だからといってニンジャスレイヤーはこちらの事情を考えず全力で抵抗してくるのだから、飼育員みたいに笑顔でホールドアップして近づくわけにもいかない。つまり……チームワークだ。全力でやれない分、皆の協力、パーティープレイで補うのだ。最初で最後の共同作業か。なんともいえない感覚をサロウはおぼえた。

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