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【トレイス・オブ・ダークニンジャ】#12

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー
S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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「大将自らの推参、いたみいるぞ」サンドマンの肩の傷口から噴き出す血潮はやがて黄変し、砂そのものとなった。どれほどの負傷が残っているのか、あるいは、即座に完治してしまったのか、ダークニンジャには判然としない。「現世への招待、楽しんでもらえただろうか? ザイバツ・シャドーギルド!」

「貴様が生き延びたのは僥倖であった」ダークニンジャは言った。「貴様の主君たるオベロンは、我らザイバツ・シャドーギルドに侵略の矛先を向けたとき、首級となり果てる末路を蚊ほども想像していなかったであろう。しかし結果は無惨なものであったな。貴様は拾った命を抱えて去るべきであった」

「我が命など、とうに無意味だ。現世を捨て、オベロン王の妖精郷の土を踏んだその時に……!」サンドマンは言った。「我が故郷となった妖精郷は、もはや無い。ならば私が在るべき理由は、復讐の他にありはしない」「そうか」ダークニンジャはカタナを後ろ手にかまえ、仕掛ける隙を探る。

「我が目的に仇なす敵は滅ぼす。それだけの話だ」ダークニンジャは言った。「貴様がキョート城を引きずり込む地点は、当初このネオサイタマではなかった筈。貴様の計略は敗北と失敗の脆い積み重ねだ。それを胸に刻み、死すべし。少なくとも、この俺みずからを奔走せしめた事は褒めてやる」

「まるでオーテ・ツミを成したが如き心境か、ダークニンジャ=サン」サンドマンは言った。「勝ち誇るには、ちと気が早いぞ。貴様は籠もる城より這々の体で焼け出され、ブザマに我が陣にただ一人ヤバレカバレしてきたに過ぎぬ。ハヤシの呪いは解けず、企業の攻撃が止む事はない……」

「面倒だ。唯それだけの事」ダークニンジャは言った。「俺がかつてエンシェント・カンジの呪いを解くためにどれほどの時間を費やしてきたか、お前は知るまい。知る必要もない。今回の貴様の計略は、俺にとって片付けるべき些事の一つ二つだ。我がカラテを以て、貴様を滅ぼす」

「我が復讐達成は目と鼻の先にあるぞ!」砂が爆発した。サンドマンはダークニンジャの眼前。「わかるか! ここに旅の終りがあるのだ!」サンドマンは異様な力を帯びた掌を顔面に叩きつけにゆく。ダークニンジャはカタナの柄で防いだ。衝撃波。帷幕内のロクハラ社員は圧に弾かれ倒れ込み、急性NRS症状を発症、昏倒あるいは死亡した。

 二人のニンジャは一瞬の切り結びで交錯し、互い違いの地点に着地した。「イヤーッ!」振り向きながらサンドマンが逆の腕を突き出すと、ダークニンジャをめがけ、帷幕内に舞う砂が四方八方全方位から凝集する!「イヤーッ!」数度の斬撃! 砂の牢獄を切り払い、ダークニンジャが飛び出す!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りが衝突。二者は反動にて再び距離をとった。一瞬前までダークニンジャが居た地点、凝縮された砂が爆ぜ、この世ならぬ01ノイズの斑模様を発生させて再び拡散した。「これもユメウツツ・ジツか」ダークニンジャは呟く。サンドマンは暗く笑う。「いつまで躱せるかな」

 その背後に、ダークニンジャが着地した。サンドマンは血が噴き出す脇腹を押さえ、横に転がった。見えぬ太刀筋! さらに追撃のイアイが空間を裂いた。サンドマンは起き上がり、ふたたび傷を砂と化した。「ヌウッ……!」「実際、厄介なジツだ。だがそう何度も躱す努力は必要となるまい」

「ならば余裕でおれ! 死のその瞬間まで!」サンドマンは目を光らせた。「ユメ!」左手をかざすと、再びダークニンジャの周囲の空間に砂が集まる!「ウツツ!」右手を突き出すと、砂が爆発! 01ノイズの裂け目を生ずる!「イヤーッ!」ダークニンジャは既に脱していた。ジグザグの軌道で迫る!

 サンドマンは接近を見越し、互いの間の空間に砂の破裂罠を設置し終えていた。ダークニンジャは小刻みに空間を蹴り、通常の動きであれば決して不可能な鋭角的回避をしながら接近した。そして斬った!「イヤーッ!」「イヤーッ!」サンドマンは裏拳でダークニンジャの腕を打ち、逸らす! 軌道予測!

「イヤーッ!」ダークニンジャの身体が反り返った。しかしそれは次の攻撃の予備動作となる! 回し蹴りだ!「イヤーッ!」サンドマンはブリッジ回避! 蹴り上げる!「イヤーッ!」ダークニンジャは宙返りを打っていた!「グワーッ!」サンドマンの肉体が肩から腰、真っ二つに裂けた!「ユメ!」

 たちまちサンドマンの裂傷が砂めいてぼやけた。「ウツツ!」サンドマンは這うように着地し、01ノイズを振り払ってカラテを構え直す。無事である! ダークニンジャの宙返り斬撃「トビ・タチ」を何らかの超自然手段で防いだのだ! そして!「イヤーッ!」地につけた手を振り上げ、薙ぎ払う!

 掴んだ地面から引きずり出した砂は、その瞬間巨大な刃めいて、曇った空間に斬撃を生じた。ダークニンジャはカタナの背に拳を当てて立て、これを受けた。ノックバックする彼のもとへ、今度はサンドマンが攻めかかった。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」飛び上がり接近しながら蹴り! 蹴り! 蹴り!

「イヤーッ!」ダークニンジャは刃を鞘に戻し、立て続けの至近カラテ連撃を受け捌く!「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」ナムサン! いまや竜巻めいて舞う砂の柱めいたロクハラ帷幕の只中、二人の恐るべきニンジャは危険な連続短打応酬の嵐と化す!

「ア、アイエエエ……!?」帷幕の隅でぼんやりと目覚めたイジマ専務は、霞むようなノイズの中で激しく打ち合う二者を目にした。キョート城攻略への飽くなき意志と己の立身出世への思いが、何らかの超自然力によって異常に駆り立てられていた事を、彼は不意に自覚し、畏れた。「こんな……事は」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」砂と01ノイズの裂け目を生じ、二者は距離を取った。イジマはサンドマンを見て我にかえった。「サンドマン=サン! と……とにかく仕留めろ! ガンバレ! 小職の運命はもはや貴殿次第だ! やるしかないんだよ! コッ……コロセー!」「イヤーッ!」サンドマンが地を蹴った!

 仕掛けるサンドマンを、ダークニンジャは袈裟懸けに切り裂いた。サンドマンの身体を構成していた砂が爆散し、半身遅れて、本物のサンドマンが飛び出し、右掌でダークニンジャを狙った。「イヤーッ!」ダークニンジャはしかし、振り下ろした刃を即座に跳ね上げていた。ナムサン! ツバメガエシ!

「ユメ!」サンドマンは苦痛をこらえ、切断された肘先を非実体化させた。「ウツツ!」実体化! そしてダークニンジャの首を掴む!

 ……そこにダークニンジャの姿はない。

 彼は既に身を屈め、サンドマンの背後。逆手に構えた妖刀を、サンドマンの背中から心臓めがけ、突き込んだ。ヤミ・ウチ。

「グワーッ!」サンドマンは身悶えした。ダークニンジャは振り向き、切っ先を抉り込んだ。ドクン。ドクン。妖刀が脈打ち、刀身に黒い血管めいた紋様が生じた。サンドマンの肉体は冷たい刃を咥え込む。妖刀ベッピン。その呪詛はユメウツツ・ジツで逃れるを許さず……「復讐だ」サンドマンは声を絞り出した。

 ダークニンジャは兆候を感じ取り、すぐにヤミ・ウチの刃を引き抜いた。そしてサンドマンを蹴り、身を離す。それでも実際、回避は遅かった。平時では到底通らぬ奇襲だ。しかし今、舞う砂はオヒガンめいた超自然結界を形成し、領域外へのニンジャ第六感の感応力を遮断していた。

 黒紫に爆ぜる砲弾が、帷幕に着弾した。

 ヤルキ重工、八脚自立式146mm電磁砲「シンジクン」。上空のキョート城に定められていた筈の狙いは、このロクハラ帷幕に向け直されていた。神話に語られしヨモツ・ニンジャの血の矢めいて飛び来たった砲弾がエメツ反転反応を引き起こし、口を半開きにしたイジマ専務の顔を黒く照らす……。

 直径15メートルほどの黒い球体が、キルゾーンのロクハラ司令部が位置する座標に観測された。01ノイズが散らばり、そこにクレーターが生じ、周囲の空気が渦を巻いて吹き込むなか……ダークニンジャは、その縁に倒れていた。装束上衣はズタズタになり、身体は酷く負傷し、やはり01ノイズ侵食が起きていた。

「……!」ダークニンジャは手をつき、呻き声をあげ、上体を起こす。かろうじて。かろうじて直撃を逃れた。クレーターには黒い結晶が析出している。今の爆発で生じたエメツだ。彼はベッピンを支えに、立ち上がろうとする。

 ……「ウツツ」それを、サンドマンが見下ろしていた。再び実体化しながら。 彼は無慈悲なカイシャクのチョップを振り上げていた。回避余地無し。ナムアミダブツ。オーテ・ツミ。あるいはチェックメイトである。

 ……その背後に、赤黒の影が立っていた。マフラーめいた布が風を受け、メンポには「忍」「殺」の禍々しい漢字が、明け方の滲んだ太陽の光を受けていた。

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