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【トレイス・オブ・ダークニンジャ】#11

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー
S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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 ヴォーテックスは巨大なジェットエンジンの中へ叩き込まれた。内部のエメツ・タービンが黒い閃光を発し、オムラの先端テックとニンジャの屈強な身体を高次融合させ年収で鎧ったヴォーテックスを飲み込んだ。「サヨ、ナラ!」ヴォーテックスはエンジンの中で粉微塵となって爆発四散した。

 KA-DOOOM……ZZZGT!……DOOOOM! 爆炎が上空に厚い塊を生じ、衝撃波が城下町の瓦を撒き散らした。「ウオオオッ!」オッドジョブは側転して瓦を躱し、すぐそばで死んでいるロクハラ・トルーパーに肝を冷やした。「こんな……ちょっと待ってくれよ」首から下げたキーボードをフィジェットめいて弄ぶ。

 ダークニンジャから直々にくだされたミッション。即ち、直接のハードウェア・ハックによるジェットエンジンの機能停止だ。「シャレになってねえ。俺もああなるんじゃねえだろうな。だが……」オッドジョブはサイバーサングラス・ゴーグルを手で直し、肚を決めた。「……俺はウィッチだ」

「ゴウオオオオン!」ライオン咆哮じみてくぐもった駆動音とともに、家屋を削り屑しながら現れたのは、四角いシルエットの二足歩行破壊兵器、モーターワコクだ。ロクハラ・イエローに塗られたオムラニウム装甲、全長4メートル。躊躇なく機銃をオッドジョブに向ける! BRRRRTTT!

「イヤーッ!」オッドジョブは側転フリップジャンプで機銃を躱し、別路地に逃れようとした。だがそちらからもモーターワコクが迫る! こちらは二機!「クソッ!」彼はブレーキめいて滑りながら方向転換し、もと来た道へ駆け戻る。飛来する銃弾! ニンジャアドレナリンが時間の流れを鈍化させる!

「イヤーッ!」オッドジョブは身体をねじってスレスレで弾丸を避けながら、敢えて前に突進した。股下をスライディングでくぐり抜けると、背部にスリケンめいて投げつける……それは有害な旧時代フロッピーディスク!「ピガガーッ!?」モーターワコクのドライブにディスクが突き刺さり痙攣!

「ジャックポット! 寝てろ!」断末魔めいて機械油を撒き散らし関節分解して崩れ落ちるモーターワコクにオッドジョブはキツネサインを掲げ、走り出す。遠く聞こえるのはニンジャ達のカラテシャウト。他の街区でも戦闘が起こっているのだ。(イヤーッ!)(イヤーッ!)ディミヌエンドとスパルトイか。

「重点! 貴様らの年収をゼロ化する!」不敵な叫びを伴い、声の方向、四つのガトリングガンを掲げるオムラのニンジャが高く飛び上がった。ディミヌエンドとスパルトイの姿が垣間見える。二人はヤグラをトライアングル・リープし、重装甲ニンジャと渡り合う。思いのほか、戦闘の距離が近い。危険だ。

「こっちに来るんじゃねえぞ」オッドジョブはスプリントの速度を上げる。DOOOM……KA-DOOOM。先ほど破壊された巨大ジェットエンジンがなおも凄まじい崩壊のプロセスを継続している。彼は赤いキモノの懐を探った。自身のストックの中でも相当入手困難な「とっておき」を使い捨てる必要があるだろう。

「ゴウオオオン!」「殲滅します」進行方向にモーターワコク! オッドジョブは鋭角方向転換し別の街路へ走り込む。近づいている。近づいている……。「……!」オッドジョブはまたもブレーキした。城下町の市民達がヤルキ兵に囲まれ、家に向かって膝をつかされ、ホールドアップさせられている。

「アイエエエ!」「お助けを……!」「申し訳ないが尋問対象は沢山は不要なのだ」ニンジャが言うと、BLAM! ヤルキ兵が無雑作に一人を撃ち抜いた。「アバーッ!」「二人くらい残しておけばよい」「そうですね」BLAM!「アバーッ!」オッドジョブは後ずさった。「おっかねえな、やれやれ」方向転換。

 そのヤルキのニンジャは蜘蛛めいた背部アームをサイバネ接続していた。明らかに危険だ。油断なくオッドジョブは呼吸と足音を殺し、遠ざかる。城下町の区画は整理されており、迂回は容易……「イヤーッ!」「「アバーッ!?」」突然のカラテシャウトに、思わず彼は再度そちらを見た。赤黒の燃焼軌跡と……ニンジャ?

「何……」「ザイバツ!?」「ムーブムーブ!」BRRTTTTT!「イヤーッ!」「「アババーッ!」」赤黒のニンジャは動揺するヤルキ兵を次々に倒し、ニンジャエージェントとアイサツをかわす。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」「ドーモ。ネンダイキです。貴様……ネオサイタマの……」「イヤーッ!」

「オイオイオイ……」オッドジョブはニンジャスレイヤーが激しいカラテ応酬の末にネンダイキのサイバネアームをひとつひとつ引きちぎってゆくさまを後に残し、もはや全力疾走で遠ざかる。ジェットエンジンはもうすぐそこだ!「サヨナラ!」後方では惨たらしいネンダイキの断末魔!

「知ったことじゃねえな」オッドジョブはダークニンジャのミッションに専念する。モーターワコクがさらに二機、前方。だがそのすぐ先に、目指すジェットエンジンがある。家々を破壊し、突き刺さった、黒い斜塔めいて、上空に熱を噴出している。「重点!」「殲滅!」モーターワコクが向かってくる!

 オッドジョブは手のひらに唾を吐き、その場で数度跳ねた。そして走り出した! 浴びせられる銃弾!「イヤーッ!」オッドジョブはキリモミ回転跳躍、モーターワコクを蹴って軌道変更、斜め上方からウイルス・フロッピーを投擲!「ピガーッ!」発狂痙攣暴走! 同士討ち!「ジャックポット!」

 ジェットエンジン付近は激しい熱に陽炎じみて空気が歪み、オッドジョブを怯ませる。このうえさらに妨害者が現れるとなればオッドジョブも絶体絶命だが、今は任務遂行に全てを賭ける。「あるじよ。俺が居なかったらどうするつもりだったんですかい」彼は笑った。「まあ……どうにかしたんだろうよ」

 オッドジョブはUNIXグローブを装着した左手で、巨大な強襲艇モーターゲンキの装甲パネルに触れた。指先が捉えた震動がニューロンに伝わり、やや上方に目指すものを示唆する。オッドジョブは装甲の切れ込みに手足を挿し込み、スポーツクライミングめいて斜めに這い上った。

「こいつだな」オッドジョブは装甲に張り付いたまま、直径25センチの円形蓋めいたパネルに手をかけた。肘と両脚でバランスを取りながら、UNIXグローブの表面のキーボードをヒットする。物理ハッキングに音を上げ、パネルが剥がれ、ディスクドライブが露出した。オッドジョブは深呼吸した。

 彼が取り出した「とっておき」のフロッピーは、時価数十億は下らぬであろう希少品。ハンザイ・コンスピラシーにもその所在を掴まれてはいない代物だ。反社会的破壊ウイルス「スケベドミネイター」の純正オリジナルディスクである。躊躇なくスロットに叩き込み、首のケーブルでLAN直結した。

 01001……01001001……010001……オッドジョブの視界がチカチカと瞬き、頭上に黄金立方体が冷たく自転した。彼は今、無限のスケベに囲まれている。呼吸すら困難な、闇の中心に、ただ彼一人が、安全である。スケベドミネイターが解き放たれた。


◆◆◆


「妙だな」ロクハラ専務タイタス・イジマは、戦略ラップトップUNIXの画面に生じた微かなグリッチ動作にまず気づいた。帷幕の中には微細な砂が舞い、部下の若いサラリマン達は緊張した面持ちで各々のUNIXをタイプし、戦局を見守っている。「……どうしましたか?」「いや、妙だ。やはり」

「え……」「これは……」部下達が顔を見合わせる。モニタには薄っすらと「スケベ」の文字が表示されている。「あれ?」「なんだろう?」サラリマン達が口々にざわめくなかで、イジマの顔色は加速度的に青褪めていく。「何だ? これは? お前らもか?」「スケベって何ですか……?」

「ア!?」一人が弾かれたように腰を浮かせた。「こ、これ……」「なんだ!」イジマは叫んだ。若いサラリマンは恐る恐る近づいてきた。「バカ! 走ってこい!」「アイエエエ! 勿論です!」若いサラリマンはイジマの傍らに立った。「司令部に、悪意あるプログラムがインストールされています!」

「悪意じゃわからんだろ!」困惑してイジマは叫んだ。「どういう事だ!  何故だよ!」「そ、それは……」「もう、キョート城墜ちるんだぞ! 栄転するんだ! うちのチームは!」激昂するイジマはもう一度UNIXモニタを見た。誰も知らぬ赤い肖像がアスキーアートされている。それが口を動かし、喋り出す。

『私はベルーカ・スケベ』博物館のガイド音声めいて、微かなエコーがかかった声だった。それが早回しになる。『このプログラムは私の生きた証であり私そのものスケベドミネイターそれが私だ今この時わたしは私を世界そのものとする世界を解き放つのが見知らぬ貴方である事を嬉しく思う私は……』

「無意味! 無意味な音声です!」「じゃあどうするんだ!」「機能しません!」「感染源は……モーターゲンキです! そんな!」ひとりが絶望的に叫んだ。「キョート城に接続したジェットエンジンから、ロクハラ社の基幹システムに……!」「バカッ!」「グワーッ!」イジマは張り手をくらわせた。

「無効化しろ! 切り離すんだ!」「し、しかし……」「だからバカ!」「グワーッ!」イジマはもう一度張り手を喰らわせた。「ロクハラがやられたら、次、次は本社のシステムだろうが! 遡られたら取り返しがつかんぞ!」「そんな! オムラから切り離すんですか!?」若者たちは悲鳴を上げた。

「俺が許可する!」イジマは鞘からカタナを抜き、戦略パイプ椅子を真っ二つにした。「今ならまだV字回復できる! やるんだよ!」「アイエエエエ!」「こういう土壇場でこそ、我らのオムラ因子の健全性が試されるんだ!」イジマは歯を食いしばり、彼らを睨んだ。「まだ作戦行動は終わっとらんぞ!」

「本社と連絡が取れました!」帷幕を走り出た部下が戻ってきた。そして報告した。「ただちにネットワーク切断処理が行われました。で、ですが、これでモーターゲンキは機能停止に……」「いや、まだだ」イジマは言った。「終わらせんぞ。爆破命令をくだせ」「爆……」「やれ!」「ヨロコンデー!」

 2030年代に猛威を奮ったスケベドミネイターによって、公職員が数千名単位で懲戒処分、さらには内閣がスキャンダル総辞職に追い込まれている。その余波は一般市民にもひろく及び、多くの者を路頭に迷わせ、死に至らしめた。ここでのイジマの動物的なサラリマンの勘と判断は的確であった。

 ネットワーク遮断によって、まずはオムラ・エンパイアへの被害拡大は防がれた。しかしネットワークセキュリティの庇護を失ったモーターゲンキは、物理的侵入者による何らかの干渉を跳ね返す事ができず、ジェット噴射はただちに機能停止に追い込まれた。

 オムラ本社のニンジャであるヴォーテックスがタービンに巻き込まれたことで、一基はすでに機能停止している。ここに二基目がやられた。いまだ稼働している三基目に望みをかける。望み……即ち、自爆である!「オムラ!」イジマはバンザイした。「オームラ! オムラオムラ!」カイシャ・チャント!

「「「オームラ! オムラ! オームラ! オームラ! オムラ! オームラ! オームラ! オムラ! オームラ! オームラ! オムラ……」」」『私はベルーカ・スケベ。私はあの日、浜辺で奇妙なものを拾った。それが波によって流線型に形成されたガラス瓶である事は確かだったが、あの日の私は……』

「オムラ! オムラ! 自爆命令通れ!」部下が絶叫し、もはやベルーカ・スケベの肖像が焼き付けられた半壊のUNIXで、エンターキーを殴りつけた。キョート城とモーターゲンキを示す三面図ワイヤーフレームが応えた。「ヤッタ!」「でかしたぞ!」イジマが唸った。「どうにでもなれ! これが魂だ!」

「ワオオーッ!」「オムラ! オムラ!」「ジェットエンジンの自爆は実際高火力だ。アレはもはや爆弾と見做す! そのタイミングをはかって航空戦力を総投入!」イジマは吠えた。「ケチな浮遊城はバラバラの粉々に砕き、スクラップを回収するものとする! これで辻褄を合わせろ!」「ヨロコンデー!」

「やるんだよ、お前ら! これがカイシャってもんだよ! 魂見せろ!」イジマはグンバイを膝でへし折り、部下を見渡した。「「「ハイ!」」」部下は感動で号泣していた。その時、伝令サラリマンが帷幕に飛び込んできた。「申し上げます! アマテラス・アームズ、ヤナマンチ、KOL、さらにヨロシサンが!」

「何! ヨロシサンだと?」イジマは見た。伝令はキヲツケして叫んだ。「四社が我らとヤルキの連合軍の陣営に対し、攻撃的布陣にて展開! 四社連合の戦力は、現時点でロクハラ・ヤルキの五倍の戦力となっています。今回のキョート城攻略に関して、ヨロシサンはいつもどおり傍観の構えでありましたが、さきほどアマテラス社の説得に応じ……」

「何だと? キルゾーンで我らにしかけるのは違反だ!」イジマが激昂した。伝令が震える手で掲げたポータブルホロ装置から、ボンズヘアーとドジョウ髭が印象的な、恰幅のよい男の姿が浮かび上がった。『ロクハラ=サン。違反は貴社らだ。好き勝手やりおってからに。全く、創業何年だね?』

「ア、アマテラスCEO……!」『一応言っておくが、正義の徒たる我らは、キルゾーンで狼藉しているロクハラ・ヤルキ連合軍諸君の横暴を包囲している格好になっている事、思い出し給えよ』「我らにはまだ、キルゾーンの占有権がある!」『それは平常時の話だ』映像が切り替わる。ヨロシCEO、サトル!

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