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【トレイス・オブ・ダークニンジャ】#10

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー
S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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 ネオサイタマ郊外、キルゾーン! 南には高層ビル群が遠く光り輝き、空は明け方を迎え、薄ぼんやりと白み始めている。浮遊するキョート城を取り囲む地上戦力のなかに、黄色の帷幕で囲われたポイントがあった。ロクハラ社の司令部である。

 帷幕には「六波羅」「羅」「科学力」「最高戦力」「怒涛」などの勇ましい文言の書かれたノボリ旗が立てられ、ボンボリには火が焚かれていた。そこには戦場パイプ椅子に座ったロクハラ社専務がいる。彼は黄色いパワード武者鎧を装着し、グンバイを構えて、ヤルキ社の伝令サラリマンを前にしていた。

「承りました」ヤルキ社の伝令は側近部下が差し出したマキモノを受け取り、一礼して走り去った。「……」ロクハラ専務タイタス・イジマが満足げに頷いて見送ると、側近社員達が近づき、讃えた。「いやあ、これは決まりましたね」「さすがイジマ=サンです」「今夜のノミカイ、予約します!」

「バカモン。勝ってメンポを確かめよ、というコトワザを知らんのか」イジマはグンバイを突きつけた。「……だが、会場は予約しておけ」「「「ヤッタ!」」」側近社員達が沸いた。彼らはロクハラの若手サラリマン達で、血気盛んにサクセスしたい気持ちに溢れている。「俺のおごりだ!」「「「ヤッタァ!」」」

 イジマはグンバイからホロ投射される戦略状況図をあらためる。キョート城には突入艇「モーターゲンキ」が既に2基着弾。浮遊する城をジェット噴射によって地面へ抑え込まんとする勇ましい作戦は功を奏し、実際、城の高度はグイグイと下がり始めている。さらに……3基目が今、着弾した。

「「「ワオオーッ!」」」側近社員が歓声をあげた。泣いている者も居る。「クーッ……。こ、これで、オムラ本社に取り立て間違いなしだ……」「イジマ=サン! そうですよね!?」「気が早いぞ。だが、そういう事になるだろうな。それも、ひととびで重要ポストだ」「一生ついて行きます!」

「イジマ=サン、投入されたニンジャ達の中には本社のニンジャも居ると……」「心配は無用だ。ロクハラではない親会社のニンジャの参戦に関し、他社に対する理論武装は完璧だ」イジマは力強く言った。「さすがです!」「年収表示のあるニンジャ……! 一体どんな事になってしまうんだ」彼らは喜びながら畏怖した。

 その時だ。「あれ? なんだ?」誰ともなく呟いた。彼らは狼狽えた。足元が霞んでいる。帷幕の中に砂が吹き込んできたのだ。「おかしいな。こんな気候ではない……」「待て」イジマは平静である。サイバネ置換された右目のトリプルカメラサイバネアイを光らせ、一点を見つめる。舞い上がった砂がそこに収束し……ニンジャとなった。

「ドーモ。タイタス・イジマ=サン」ニンジャはアイサツした。彼を覆う上衣は、いまだ砂めいて不定形に流れ続けている。「サンドマンです」「ドーモ。サンドマン=サン。タイタス・イジマです」イジマは緊張にやや硬直した声でアイサツに応じた。イジマは非ニンジャである。

「素晴らしき首尾だ。ロクハラ=サン」サンドマンは奇妙にエコーのかかった声で称賛した。「貴社は実によく動いている。ヤルキ社と速やかに講和し、迅速に軍を展開。ここまで、私が思い描いた理想のとおりだ」「うむ」イジマは頷いた。舞う砂の中、彼の動きは緩慢であった。側近社員達は頭を揺らし始めた。

「我が社にとって……貴殿の提案は……」イジマは言葉を切り、頭を振った。「貴殿の提案は……素晴らしいものだ。ネオサイタマにおける存在感をより強いものと……する為に……力を示すとともに……莫大なエメツ資産を……」「その通り」サンドマンは妖しく同意した。「企業諸君の好きなWIN-WINだ」

「WIN-WIN……その通り」イジマは首を傾けた。「降って湧いた幸運だ……宝の山だ……素晴らしい……」「その幸運をお膳立てしたのが私だ」サンドマンは言った。「ハヤシの力は容易く破られはせぬ。このような複雑な地に固定する事となったのは想定外だが、君等はよく働いてくれた」

「恐縮の至り」そしてイジマは舞う砂の中で尋ねた。「ひとつよろしいか……キョート城のザイバツに、貴殿は如何なる利害が? その詳細をいまだ……窺っていなかったが」「詳細などない。動機は単純なものだ」サンドマンは答えた。「復讐だ。我が主君を葬ったザイバツ・シャドーギルドを根絶やしにする」


◆◆◆


 アイサツを終えたニーズヘグ、パーガトリーと、対峙するヴォーテックス、デプロイメント、ファイアーワークスのイクサの火蓋を切ったのは、三つ目の突撃艇が地を割った衝撃だった。激しい炎が噴き上がり、熱い空気の奔流に変わる中、ニーズヘグは仕掛けた。「イヤーッ!」

「イヤーッ!」そこへ突っ込むのはデプロイメント! ニーズヘグの蛇矛を巨大盾で受け止めると、衝撃波が走り、付近の家屋の瓦が吹き飛んだ。「イヤーッ!」旋回飛行で側面を取ったファイアーワークスが外骨格を展開。中に詰まった小型ミサイルを散布する!

「イヤーッ!」パーガトリーはこれに対し、高高度より仕掛ける。彼の背中から上空へ舞い上がった無数の光球が、湾曲しながら降り注いだ。カラテミサイルだ! それらがファイアーワークスの小型ミサイルをすべて撃ち落としにかかる……「イヤーッ!」ヴォーテックスが手を翳す! 青い電磁球体が出現!

 すると、見よ! カラテミサイルは電磁球体に引き寄せられ、吸い込まれてゆくではないか!「何ッ? 面妖な」パーガトリーは訝しんだ。コントロールを失った光弾がファイアーワークスの攻撃を押し留める事叶わず。彼女の小型ミサイルはニーズヘグを取り囲んだ!「爆ぜよ!」ファイアーワークスが起爆!

「チイッ!」ニーズヘグは一瞬早く反応した。デプロイメントの大盾を蹴り弾き、蛇矛を振り回す。KBAMKBAMKBAMKBAM! 取り囲む散布ミサイルが時間差爆発! ニーズヘグは爆風を切り払い、斬撃のカラテで凌ごうとする。「イイイイヤアアーッ!」そこへ襲いかかるのはデプロイメントの巨大ハンマー攻撃!

「グワーッ!」KRAAASH! 巨大ハンマーで殴られたニーズヘグは斜めに吹き飛び、家屋に叩き込まれた。崩壊!『攻撃成功をインセンティブします』付近の空中に浮遊するオムラドローン「モーターサテイ」が電子音を発すると、デプロイメントの胸の年収表示が1万増え、18万3,330となった。強化だ!

「我が年収、壮大なり!」デプロイメントはハンマーを振りかざし、砕けた家屋に降下しながら振り下ろした。KRAAAASH! 凄まじい破壊! ほぼクレーター化! 一瞬早くニーズヘグは屋根瓦を突き破って逃れており、センベイめいた圧死を逃れた! 彼は隣家の屋根に着地し、パーガトリーを見た。「役に立っとらんぞ左将軍!」「黙りおれ!」

 パーガトリーは再びカラテミサイルを生じていた。肩の上に浮遊する光弾を放つ! しかしヴォーテックスの電磁球体に吸い寄せられてしまう!「バカのひとつ覚え」ヴォーテックスが言い放つ。彼はいまだ参戦すらしていない。「臨機応変な対処ができぬ。我が社の社員ならば年収5万オムロから始めなさい」

「イヤーッ!」ファイアーワークスは散布ミサイルの狙いをパーガトリーに向けた! パーガトリーは鋭角的な飛翔でミサイルを躱す。躱した地点にはしかし、ファイアーワークスがあらかじめ配置したミサイルが浮遊している。「ヌ……」「愚鈍。年収3万に修正」ヴォーテックスがマイナス査定した。

 KBAMKBAMKBAMKBAM! パーガトリーは花火めいた爆発に包まれた。「グワーッ!」これに対し、ファイアーワークスは用心深く距離を取った。粉塵の中からパーガトリーが……落下! 屋根に着地! 身を覆うカラテ粒子が剥ぎ取られている。ファイアーワークスは第二波、第三波と分けてミサイル攻撃を展開!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」デプロイメントと蛇矛で打ち合いながら、ニーズヘグはパーガトリーを見た。パーガトリーは屋根から屋根へ飛び渡り、降り注ぐ散布ミサイルを凌いでいた。「余所見禁物です! イヤーッ!」デプロイメントが盾を叩きつけた。ニーズヘグは蛇矛で打ち返す。圧力!

 ニーズヘグは後に滑り、蛇矛を構え直した。デプロイメントは巨大ハンマーを振り上げ、腰を落とした。モーターサテイが立ち回りを評価し、胸に表示された年収は20万3330にまで高められている! 一方、ファイアーワークスもまたプラス査定を受けて年収は21万6200オムロ! 第三波を撃ち込む! 

「イヤーッ!」KBAMKBAMKBAMKBAM! 爆発! 爆発! パーガトリーは眉をしかめてキリモミ回転跳躍し、あやうい爆風の中、突如加速した! カラテ粒子のバックファイアをスラスターめかせ、突進する先は……ファイアーワークス!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ファイアーワークスは蹴り返す!

「イヤーッ!」パーガトリーは蹴りをいなし、チョップを打つ! ファイアーワークスは掴んで止める! そして脇腹を殴りつける!「イヤーッ!」「イヤーッ!」パーガトリーは肘を下ろし押さえつける!「年収矮小者め。近接戦闘ならばどうにかなるとでも?」「否、どうでもよい」パーガトリーは答えた。

「な……」つるりとしたフルメンポの奥で、ファイアーワークスはニンジャ第六感の畏怖に表情を曇らせた。触れた腕を通じ、力の怒涛の伝達を感じた時には、もはや遅かった。パーガトリーは自身の肉体の深奥に点めいたサイズにまで凝縮した己のカラテ粒子を解放した。ヒサツ・ワザ、カラテストーム。

 KRA-TOOOOOOOOOM……! 球状の爆発が散り消えた時、パーガトリーの足元には、ズタズタになったファイアーワークスが倒れていた。パーガトリーは侮蔑と共に見下ろし、顔面を踏み砕いてカイシャクした。「サヨナラ!」ファイアーワークスは爆発四散した。

 カラテストームの余波で生み出された光弾が、荒れ果てた市街の上で不規則な軌道を描き、電磁球体に吸い込まれていった。「イヤーッ!」ヴォーテックスは身構えた。そのとき彼のもとへ屋根を飛び渡ってきたニンジャあり。ザイバツのニンジャ、ポイズンダートである。ヴォーテックスは手をかざした。

「イヤッ! イヤーッ!」ポイズンダートが投げる毒のダートを、ヴォーテックスは丁寧に止めてゆく。かざした手の先に青い電磁場が生じ、ダートを絡め取り、まとめて凝縮してしまうのだ。「イヤーッ!」果敢に攻撃するポイズンダートはしかし、布石だ。上からはニムロッド!「イヤーッ!」

 上空を横切った翼竜から飛び降りたニムロッドが、赤熱するヤリを構えて降下攻撃を仕掛けた! 前門のバッファロー、後門のタイガーの格好だ。ヴォーテックスは握り込むように手を動かした。「イヤーッ!」浮遊している電磁球体が動き、落下してくるニムロッドを殴りつける!

「イヤーッ!」だがニムロッドは空中で膝を曲げて身を縮めたのち、勢いをつけて脚を伸ばした。カラテが落下速度を加速せしめ、電磁球体の攻撃は空を切った。「トッタリ!」ニムロッドは赤熱ヤリで攻撃! ヴォーテックスは鼻を鳴らし、ヤリを脇に抱き込んで止めてしまった!「イヤーッ!」

 なんたる一瞬の回避か! 油断ならぬヴォーテックスはヤリごとニムロッドを振り回した。ニムロッドはしがみついて蹴りを繰り出すも、意に介さぬ。死角から毒クナイによる近接スタブ攻撃を狙ったポイズンダートをニムロッドの身体で薙ぎ払う!「イヤーッ!」「グワーッ!」

「オムラの推進力を阻む事、まかりならん」ヴォーテックスは巨大なモーターゲンキを背後に力強く笑った。「我が年収は鉄壁なり!」吹き飛ばされたニムロッドとポイズンダートの勢いは空中で緩慢に静止し、やがて、引き寄せられ始めた。空中の青い電磁球体に向かって!「マグネ・ジツ! イヤーッ!」

「ア、ア……!」「アババババーッ!?」二人は電磁球体に飲み込まれた。残虐なる重力が二人をいちどきに押し潰し、ミシミシ、ベキベキという悪寒をよぶ破砕音のなかで圧死せしめた。「「サヨナラ!」」ニムロッドとポイズンダートが爆発四散し、電磁球体はその質量を増した! ナムアミダブツ!

『インセンティブ付与』モーターサテイが宣言し、ヴォーテックスの年収は400万3,330オムロとなった。「イヤーッ!」パーガトリーは再びその身にカラテ粒子の力場を身に纏い、浮上しながら攻撃した。無数の光弾はランダムな方向に降り注ぎ、ヴォーテックスを襲う。誘導力のない光弾だ。

 パーガトリーは電磁球体がカラテミサイルを殺す仕組みを推測し、そのような攻撃に切り替えた。彼の判断は実際当たっていた。ヴォーテックスの周囲を高速で飛翔しながら、連続のカラテミサイルで押し切る構えだ。だがヴォーテックスは電磁球体を自身の周囲に旋回させ、光弾を防いでしまう。

「無駄だ! 我が年収には一点の曇りもなし」ヴォーテックスは空中で直立状態。両手を結んでジツに集中し、全ての攻撃を電磁球体で打ち消す。だがパーガトリーは攻撃を継続する。「そなたのカラテは我が制圧下なり。我が年収、1億オムロとでもせよ」「査定却下。我らは時間を味方につけている」

『巨大なジェットエンジン3基によってキョート城の高度が明らかに低下している。このままでは墜落を免れぬ』ネクサスの警告がザイバツニンジャのニューロンに轟いている。「時間が味方か」パーガトリーは攻撃を継続しながら呟いた。そしてニーズヘグを見た。「それは私も同じ事よ……」

「イヤーッ!」KRAAAASH! デプロイメントの攻撃が更なる家屋を叩き潰した。横に側転して逃れたニーズヘグは、後ろ手に蛇矛を構え、カラテを研ぎ澄ませた。「あまり城下町を荒らさせるのも恥じゃの。大工どもの手もかかる」互いに明確な有効打なし。その中でデプロイメントの年収は危険水域だ。

『拠点破壊インセンティブ付与』モーターサテイが宣言し、さらに2万オムロが上乗せされた。このままでは年収は手のつけられぬ額となる。「イイイイイヤアアーッ!」デプロイメントは盾を地面に突き刺し、そのままパワーショベルめいて突進した! ナムサン! ニーズヘグの筋肉が縄めいて隆起!

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