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【グランス・オブ・マザーカース】第2部

◇総合目次 ◇エピソード一覧


この小説はTwitter連載時のログをそのままアーカイブしたものであり、誤字脱字などの修正は基本的に行っていません。このエピソードの加筆修正版は、複数の物理書籍に収録されています。

このエピソードの掲載は変則的なスケジュールがとられており、前半は第1部連載時に掲載されました。今回は第2部連載時に掲載された後半部をまとめています。前半部は下記リンクより参照してください。

【グランス・オブ・マザーカース】第1部



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【グランス・オブ・マザーカース】

 トリイ・ゲートをくぐったナンシーとニンジャスレイヤーが目の前に見たのは、サルガッソーめいて屋形船や軍艦が重なり合う、荒廃したリアス式の海岸だった。海岸線はそれにしてもあまりにもドット幾何学めいてギザギザであり、不自然さを感じさせた。やはりここもコトダマ空間なのだ。

「次はこれか。いい加減にしてくれという気になってきたが」ニンジャスレイヤーは未来めいて輝くボディスーツを着たナンシーを見やった。ナンシーは肩を竦める。「私もログアウトしたいところ。そろそろ、外していい?」「構わん。オヌシに関わりのない問題だ」「言ってみただけよ」

 ニンジャスレイヤーは頭上の黄金の立方体を見上げた。「常にある」「そうね」ナンシーは頷いた。「ネットワーク接続者の間でも、あれの正体は謎で。近づけないの。一説には、プロテクトされたまま廃墟化した巨大なサーバー……戦前のイスラエルとか。軌道上に打ち棄てられた宇宙ステーションとか」

「不思議なものか」「そう、不思議なもの」ナンシーは笑い、「正体がわからない。だから、あれを崇めるカルトめいたハッカークランもある。ゴールデンドーンという集団で、教祖のハッカーはニンジャを自称してる」「初耳だな」「殺しに行く?居場所がわからないけど」ナンシーは冗談めかして言った。

 二人を導くように、何もない地面に足跡が生まれ、ギュッ、ギュッと音を立てて、伸びてゆく。(よくやった。足跡はサインだ)バーバヤガの声が夜空にタイプされた。(あの先に帰る道がある。すまないことをしたよ)「何が目的だ」ニンジャスレイヤーは剣呑に言った。

(目的は済ンでる。鈍感なあンたの目、既に開かれた。この世界が見エるだろ。インクィジターは予期せぬオマケだわ。だから、あとは帰すだけ)「……」ニンジャスレイヤーは歩き出す。ナンシーも続いた。(そこの嬢ちャんは、見込みがある。ま、あンまり憶えちャいないだろう。あンたも、嬢ちャんも)

 二人は足跡に沿って歩き続ける。(ここはあンた達の実時間に対して、斜めに交差している。過去、未来、インガオホー、あンたたちからすれば、歪ンでいる。だから憶えられない)「彼女には今、見えていないのか、オヌシの存在が」(あンたの文脈に添わせて答えるなら、正しくは見えてない)「……」

「見ろ、ナンシー=サン」ニンジャスレイヤーは足を止めた「トリイだ」「そうね」地平線に揺らぐ、トリイのシルエット。近づけば相当に大きいはずだ。二人は無言で歩き続ける 。

 ……体感時間で20時間は歩いたに違いない。疲れもなく、腹も空かない。トリイはまだまだ遠いが、半分ほどの行程を消化した。黄金の立方体は常に上空でゆっくりと自転を続ける。その冷たい輝き。左手の暗い海。どこまでも無限に折り重なる廃船。

「目を開いたと言ったが、なぜそんな事を私に?なぜ私だ」(必要だからだ、後々ね)「なぜ」(説明しても、無駄なンだよ。さッき言ったように、どうせ忘れてしまう。そして、今話しても、今のあンたには、意味がない)「……」

 さらに20時間歩いた二人は、巨大なトリイが建つ丘を前にしていた。丘には天然めかした階段が這い、トリイに導いている。「この丘を登り、トリイをくぐれば、ネオサイタマという事だ」「よかったじゃない」ナンシーは微笑した。「おかしな夢を見たわ」「……ナンシー=サン」「何」「あれは?」

 ニンジャスレイヤーは空を指差す。白く輝く光が流星めいて落下してくる。真上から。ここに!「ナンシー=サン。これもチャメシ・インシデントか」「違う!」ナンシーが首を振った時、一瞬の速度で到達したそれは、二人の目の前、丘の階段の中途を直撃し、0と1のパルスを撒き散らして破壊した!

「00101011」「何が……」「インクィジター?」ニンジャスレイヤーは破壊された階段を見上げ、ナンシーをかばうように前に出た。降ってきたものはぼやけた輪郭を徐々に人型に近づけ、苦しむように震えながら、もんどり打って、階段から二人の目の前の地面に転がり落ちた。

「0001110ああ!01011ああ01011あ!」震える人型の光が、二人の方向へ手を差し伸べた。口めいたものが動き、人語を発音した。「0101101……ニンジャスレイヤー=サンか?……あと……そこにいるのはナンシー=サン……あああ!」

「何だと」ニンジャスレイヤーは警戒した。「なぜ名を知る?」「01あああ!あああ!うまく0010いったか?おれは?身体が0100101身体はどこだ」「ナンシー=サン!」「わ、わからない!」ナンシーは首を振った。「誰かのアカウント……存在しないアドレス!今のあなたみたいに!」

「俺……010俺の身体001011俺00」光る人型の輪郭の背中が爆ぜ、崩れながら手足を地面についた。「0100」ナムサン!彼らを包囲するように、複数のノイズ人影が地面から生えてくる!「バーバヤガ=サン!バーバヤガ=サン!どこだ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「何だ!これは!」

「ドーモーモーモーモーモ、インクィジターーターターターターターターターターター」ノイズ人影は一斉にオジギ!「イヤーッ!」ナンシーが両手を振り上げ、banコマンドが書かれた人魂を空中に複数召喚する!だがインクィジターが速い!

「イヤーッ!」数体のインクィジターが同時にナンシーに飛びかかり、チョップ突きを繰り出して、その身体を貫く!「ンアーッ!」ban人魂はインクィジター数体に命中し消滅させる!さらに多くの新手が生ずる!これでは「焼いたスシに水をかけても戻らない」のコトワザ・インシデント!

「0100ヤバ0101イ00畜生0ヤバイ」光の人影は立ち上がろうともがく!かなわぬ!銀の光が血飛沫めいて噴き出し、飛沫は0と1に還元されて消滅する!「ヤ01011バイ0010」「バーバヤガ=サン!」襲いくるインクィジターを手当り次第に破壊しながらニンジャスレイヤーが叫ぶ!

「バーバヤガ=サン!どうにかせよ!」「イヤーッ!」インクィジターがその背中に掴みかかる!だが、おお、その時だ!「01001110101110111」ニンジャスレイヤーの背中を護るように新手の人影が地面から生え、稲妻めいた回転攻撃でインクィジターを弾き飛ばした!ゴウランガ!

(ニンジャスレイヤー=サン!そいつを遣わした!共に戦え!)バーバヤガの言葉がニューロンを打ち鳴らす!出現した人影はキツネオメーンを被った風変わりな姿を取る!そしてオジギした!「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。シルバーキー=サン。インクィジター=サン。ケジメニンジャです」

「シルバーキー?ケジメニンジャ?誰だ!こやつらは!」アイサツも忘れ、ニンジャスレイヤーは叫んだ。(知る必要は無い!今のあンたが知らない奴らさ!だがその小僧を救え!千載一遇の……時間軸に対して斜めに交差……特異……)「イヤーッ!」複数のインクィジターが飛びかかる!

「イヤーッ!」ケジメニンジャはコマめいてジャイロ回転しながら旋回、襲い来る複数体のインクィジターを両手のドス・ダガーで瞬時にケジメ破壊!「イヤーッ!」素早く我に返ったニンジャスレイヤーも電撃的なキックを繰り出し、次々にインクィジターを破壊!さらに生ずる新手のインクィジター!

「俺0は!俺001はやったの010か?ニンジャスレ001イヤー=サン!01ナラ00クは?」シルバーキーと呼ばれた光の人影が苦しみながら問うた。「イヤーッ!」それを破壊すべく掴みかかる複数のインクィジター!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立ちはだかり、これを回し蹴りで粉砕!

「ドーモーモ、インクィジターターター」彼らを包囲して更なるインクィジターが地面から生えてくる!ニンジャスレイヤーは絶望的に身構える。コトダマ空間におけるイクサは物理的なカラテは当然無意味、純粋なタイピング速度の勝負であるが、彼らのように実体無き存在にとっては精神力が全てだ。

「ナンシー=サンは!無事なのか!」(逃がした)素早くバーバヤガが応答した。(自分の心配をするンだ。そしてそこで消えかかッてる小僧の!奴のアイデンティティは今、奴のニンジャソウルがかろうじて繋いでる。無茶をしてる!インクィジターは奴を許さない、このままじャ保たないよ)

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」インクィジターが人間魚雷めいた頭突き飛行で次々にシルバーキーめがけ襲いかかる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブンシンするほどの非現実的速度でチョップを繰り出し、これを撃ち落としてゆく!

「イヤーッ!」ケジメニンジャもまたジャイロ回転で旋回し、立て続けに飛来するインクィジターの頭突き特攻を弾き壊してゆく!タツジン!彼はニンジャソウルを持たない。これは彼自身が記憶するカラテをコトダマ空間で再現したものだ。「ドーモーモーモーモーモ」さらに出現するインクィジター!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーとケジメニンジャは激烈な高速電子コマンドカラテで押し寄せるインクィジターを撃墜し続ける!彼らに護られながら、徐々に崩れゆく人型の光!「お……俺はシルバーキー、俺は!俺はシルバーキー!俺はシルバーキー!俺は!俺はシルバーキー!」

「グワーッ!」ケジメニンジャがインクィジター一体の撃墜に失敗!ケジメニンジャの肩が爆発崩壊に巻き込まれ、0と1に還元される!「イヤーッ!」そこへ襲いかかるインクィジターをニンジャスレイヤーは瞬時にインターラプトし破壊!「イヤーッ!」今度はシルバーキーへ向かう者らを瞬時に破壊!

「いかんな、俺はこコマデダ」ケジメニンジャが呟いた。上半身の左半分が拡散消滅した無残な姿である。ニンジャスレイヤーは電子カラテを繰り出し残敵を殲滅!「ドーモーモーモーモ、インクィジターターターターターター」さらに出現するインクィジター……ナムサン!ナムサン!

「俺は、くそっ、俺はオレはやったか?ニンジャスレイヤー=サン、やったか?俺は……」シルバーキーの身体の三分の一は既に分解拡散、体内でコロナめいて燃える存在が露出している。シルバーキーのニンジャソウルだ!「俺は俺は……」「イヤーッ!」インクィジター達の頭突き特攻!

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれらを壊す!壊す!壊す!壊す!壊す!「イヤーッ!」……そしてケジメニンジャが!消えかかるシルバーキーめがけ跳躍した!無事な右腕を伸ばし、シルバーキーの輪郭と、そのニンジャソウルをかき抱く!

「010001011101俺は0010111011」ケジメニンジャの体内にシルバーキーのニンジャソウルは吸い込まれ、銀色の輪郭が糸のようにほぐれ、渦巻いて、ケジメニンジャの身体の崩壊部からその奥へ、入り込んでゆく!「ドーモーモーモーモーモ」インクィジターがさらに出現!

「010001001001俺は0010110100101」さらなる襲撃に身構えるニンジャスレイヤーの傍に、ケジメニンジャが立つ……いや、シルバーキーが?様々な色に脈打つ不安定なニンジャ装束を着たそのニンジャが、ニンジャスレイヤーの首根を掴んだ。「01000110101」

「イヤーッ!」一斉にインクィジターが頭突き特攻を繰り出す!「010」だが、ゴ、ゴウランガ!?時間が静止したように、それら全てが!空中に静止したではないか!ニンジャスレイヤーは見た、己の首根を掴むそのニンジャが、片手を前に突き出し、掌を広げ、不可思議に押しとどめるさまを!

「ああああ!俺は!」ニンジャは言った、そしてニンジャスレイヤーを掴んだまま飛び上がった!空中で旋回し、丘の上のトリイ・ゲートへ飛行!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」追いすがろうとする無数のインクィジターが彼らに続く!そして……くぐり抜ける!

「俺は!この!ああ!このニンジャソウル!俺は!俺は!俺は!俺はシルバーキー……シルバーキー……シルバーキー……シ0101110111011011」

0100010001000100010001010101

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは背中から地面にしたたか叩きつけられた。時刻は夜!空は曇天、そこに黄金の立方体は無い。三機のコケシツェッペリンが横切り、横腹に設置されたスクリーンにはオスモウ映像が流れる……見慣れた世界だ。ネオサイタマだ。身体を起こす。どこかのビルの屋上だ。

 眼下のネオサイタマ夜景を見下ろす。サラリマン達の血を吐くような過剰労働で作り出された七色の光を。懐からIRC通信機を取り出す。無線LANが来ている。時刻表示を確認する。現実に戻ったか。ナンシーはオンライン。彼はノーティスを送信。すぐにojigiコマンドが返る。無事か。

 彼は背後を振り返る。トリイ・ゲートがある。ビルの屋上にトリイ。ごく稀にそういった物件は存在する。地権者が太古のサムライゴーストの霊的被害を恐れて設置するのだ。トリイの奥には何の変哲もないジゾ石像が収められたミニマムシュラインがあり、スシが備えられている。

「……」トリイ・ゲートに手をかざした。何も起こらない。くぐったが、やはり何も無い。彼はたった今の異常な旅の体験を記憶に留めようと試みた。しかし既に名は思い出せない、あの恐るべき敵の名、己の名を呼んだ者の名、ニンジャの名。彼は無力感を覚えたが、その理由ももはやわからなかった。

「アカチャン!」「あなたバイオレプリカ指のモニター募集ですよ」「若い、ヤルヨネー」「ワースゴイ、ナンカスゴーイ、ケモビール、ダヨネー」「重点的にこのアタッチメントで液晶が倍に見える」「これは凄いエキサイトメントだ」……けたたましい広告音声がにわかに彼を包み込む。目を閉じる。


【グランス・オブ・マザーカース】終


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