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【トレイス・オブ・ダークニンジャ】#8

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー
S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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 ドオン! ドオン! ドオン! 遠い太鼓の重低音が鳴り響き、霞に覆われた空には割れた月と黄金の立方体が重なり合う。黒のタタミが敷き詰められた正方形の広間を、囲うように立つ無数の柱が支えている。柱と梁には精緻な彫刻が施され、時代がかったゼンを醸し出す。……キョート城、天守閣。

 カミザには紫のビヨンボが立ち、オブシディアンの甲冑、大剣、リアルニンジャの頭蓋、ダーククリスタル、「不如帰」の掛け軸が飾られている。その前で、四人のザイバツ・グランドマスター・ニンジャ達が向かい合い着席。シモザには油断なき精強なマスターニンジャ達が並び座る。

 ザブトンにアグラ、あるいは正座し沈黙する四名。すなわち、凄まじきカラテ陽炎立ち上らせるニーズヘグ、凍るような洗練と冷酷を湛えるパーガトリー、神秘的な眼光を妖しく輝かせるパープルタコ、フードを目深に被った姿を仄暗く霞ませたネクサス。彼らの視線が動いた。グランドロードが現れたのだ。

「オナーリー……!」コショウのニンジャ、ルミナントが細くもよく通る声を発した。広い天守閣の全ニンジャの眼差しを集めたのは、黒く長い上衣を翻し入場した、グランドロード・ダークニンジャである。そして……共に現れたもう一人。赤黒の装束。「忍」「殺」のメンポ。ニンジャスレイヤー! 

 検分。疑念。敵意。あるいは殺意。ニンジャスレイヤーに注がれる視線に、剣呑でないものはなかった。「GRRRRR……」唸り声を発する影が、二者の足を止めさせた。天井を衝くほどの巨大な犬。否。オオカミ。否。フェンリル・ニンジャの憑依者、ニンジャウルフのフェルファングである。

「懲罰騎士フェルファング=サン」ネクサスが牽制した。彼の姿はおぼろに霞む。実体はこの天守閣になく、城内某所でコトダマンサー達を監督しながらのリモート参加を許されている。「事前通達は伝わっておるな……」

『我が目と鼻が全て』フェルファングは取り合わぬ。その場の者のニューロンに届く超自然的な声を発する。『厄災か。盗人か。センシか』恐るべき巨狼は鼻先をニンジャスレイヤーの眼前に接触寸前まで近づけた。

 ニンジャスレイヤーは一歩も引かず、瞬きひとつせず、フェルファングを睨み据えた。アトモスフィアが更に張り詰める。空気に亀裂が生じる程に。牙が軋み、宝石めいた目が血走る。だがニンジャスレイヤーは退かぬ。

 フェルファングの白い炎めいた毛並みが逆立ち、敵意は殺意に高められんとする……「充分だ。フェルファング=サン」ダークニンジャが言った。静かだが有無を言わさぬ命令だった。フェルファングはニンジャスレイヤーを睨んだまま後へ下がった。ニンジャスレイヤーは広い天守閣のニンジャ達を見渡す。カラテをはかるように。

 コショウのルミナントが何処からか追加のザブトンを持って来た。ダークニンジャのアイコンタクトを受け、彼はグランドマスター達からやや離れた端の位置にザブトンを設置。角の立たぬ位置だ。ニンジャスレイヤーを促すが、油断なき視線が返されると、やや震え、ふっくらとした唇を噛んだ。

「諸手に大成果を携えての御帰還、謹みて寿ぎ申し述べる次第」パーガトリーがダークニンジャに深くオジギし、呪術めいた口上で迎え入れた。そして顔をあげ、目を細めて、視界の端にニンジャスレイヤーを捉えた。「して、あらためて、そこの何やら……実際あやしき者について、御説明を?」

 先ほどネクサスが言ったように、事前に情報は共有されている。そのうえでの蒸し返しであった。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはダークニンジャの返答よりも早く、パーガトリーに向かってアイサツを繰り出した。「貴様らをこの目で見に来た」名乗りを待つ。挑むように。

 パーガトリーはこめかみに薄く血管を浮き上がらせ、微かに息を吐いて、アイサツに応じた。「……ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。パーガトリーです」「そうか」ニンジャスレイヤーは頷いた。ニーズヘグがニヤリと笑った。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ニーズヘグです」

 ニンジャスレイヤーは見た。ニーズヘグは目を光らせた。「ネザーキョウ以来じゃの。オヌシ、あの修羅場を制したか」「……」ニンジャスレイヤーは鼻を鳴らす。ニーズヘグは腹を掻いた。「あの折は我ながらブザマを見せたわ。だが今ここにオヌシが現れるとは、天の采配か。ワシは万全ぞ」両者のカラテ・アトモスフィアが衝突、空気が濁った。

「ドーモ。パープルタコです」二者が一触即発となるを待たず、パープルタコが続いてアイサツした。瞳の虹彩に円形の光が生じ、幾重にも広がる。ニンジャスレイヤーは反射的に微かに目をそらし、防ぐ。パープルタコは感心したようにコロコロと笑った。文字通り、アイサツがわりのヒュプノ・ジツだ。

「現世の刺激は素敵……」ジュウニヒトエ姿のパープルタコはニンジャスレイヤーを手招きした。「膝下へいらっしゃい。ここのむさくるしい連中から守ってあげる……」「必要ない」「アラ」「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ネクサスです」続いて、霞む影がアイサツした。

 そして強調するように言った。「ただ、あるじの御心のままに」これは、他のシャドーギルドの者達が、ダークニンジャに伴われてきたニンジャスレイヤーに対して必要以上に攻撃的な反応を行わぬよう、明確に牽制するものであった。ニンジャスレイヤーはアイサツに応え、用意されたザブトンに座った。

 ダークニンジャはグランドマスター達の前を歩いた。ルミナントに上衣を預けると、ダークニンジャは一段高いカミザの玉座に腰を下ろした。鞘に納められたベッピンは、超自然的なヘラジカの角に掛けられる。ツヅミ・タイコが鳴らされ、会議が始まった。

 ダークニンジャはネオサイタマ・クエストのあらましを語る。キョート城を縛り付ける力がいにしえのハヤシの呪いである事。ブラックブレード・オブ・クサナギを用いれば呪いを解除できる事。クサナギはネオサイタマに散らばったレリックのひとつで、ニンジャスレイヤーが探索に協力する事。

「ニンジャスレイヤーが探索に協力」……そのくだりで、ギルドの者達はあらためてどよめく。かつてのニンジャスレイヤーと別人であるとしても、ナラクのソウルは同一。継承するものは決して小さくない。そもそも現在のニンジャスレイヤーに対しても、かつてソウル収奪のクエストが行われ、衝突が発生している。

 それをテウチし、取引を行うなどと! だが、ダークニンジャはクサナギを他のレリック群とともに奪ったのが、カツ・ワンソーの影たるブギーマンであり、ニンジャスレイヤーは散逸レリックを探す力を持ち、またワンソーの影に敵対する者であると強調した。利害の一致は明確なものであると。

 実際、現在の城を取り巻く状況は極めてエマージェントであり、メンツや過去に拘る次元にはない。ギルドのニンジャ達は身に沁みてそれをわかってはいた。そもそもソウル収奪のイクサについては、ギルド側から一方的に仕掛けたものであった。それでも、理屈を超えた感情の問題は残るものだ。

 この場に出席を許されたマスターニンジャの中にも、ニンジャスレイヤーに挑むような睨みを向け続ける者は何人もいる。たとえば好戦的な眼差しの男、スパルトイ。翼付きの兜を被った猛々しき女武人ヴィングイェルム。本能的な恨み骨髄の旧ザイバツ出身ニンジャ達。だがニンジャスレイヤーは怯まぬ。

 腕組みして見守る彼の傍ら、不意に近づいていたニンジャが低く声をかけた。「気を張っていらっしゃいますね。それも当然……貴方は招かれざる客といったところ」ニンジャスレイヤーの隣で膝をついたのは、緑と紫の混じり合う装束を着た女のニンジャだった。「ドーモ。フローライトです」

 ニンジャスレイヤーは短く頷き、アイサツに応じながら、フローライトがパーガトリーと交わす不穏な視線を見逃さない。「オモテナシいたしましょう」何処からか持参した小さな鉄瓶からチャを注ごうとする。だがニンジャスレイヤーは手で制した。彼はダークニンジャの言葉を覚えている。

 オヒガンで食事すれば、如何なる理由か、現世への帰還は困難なものになるのだという。フローライトは眉をしかめて見せる。「なんと。歓待を受けぬというのですか? これは驚きました。道中の困窮をご覧になりましたね? この菓子など、城下の下民には望んでも口に入らぬほどの贅沢です……」

「ならば、そいつらにくれてやれ。腹は減っていない」「ククク……なんとまあ。シツレイのなんたるかを極めていらっしゃるか。あるいは無自覚に? それもすさまじきこと……」フローライトは慇懃無礼に笑った。ダークニンジャは一度、彼らに視線を投げたが、助け舟を出しはしない。

「ンン? どうした、フローライト=サン?」パーガトリーが突然気づいたように声をあげた。「客人になにか粗相をしたのか? 許さぬぞ」「申し訳ございません」フローライトはその場で深く頭を下げた。「わたくしの作法が至らず、ニンジャスレイヤー=サンがオモテナシを拒絶なさり……」「なんと」

 マスターニンジャの連なりのなかで、スパルトイが唸った。「あれは最高級のネリキリじゃねえか。いらねえッてか……」「食わんのか」ファイアウィルムが懸念する。パーガトリーは満足気に彼らを見渡す。そして口元を扇子で隠した。「あるじよ。シツレイながら、心通わぬ相手と同盟とは、いかにも」

「そうだ」「先代だか今世だか知らぬが、敵は敵……絶対敵なり!」旧ザイバツ派が身を乗り出す。フローライトは瞬きし、ニンジャスレイヤーを見た。「こんな事になってしまって。全て貴方の責任ですね……」「バカバカしい」ニンジャスレイヤーは首を振った。「おれとやり合いたいなら、そう言え」

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