【ジ・インターナショナル・ハンザイ・コンスピラシー】#3
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「イヤーッ!」オニズカはクイックブレードを逆手に持ち、ブギーマンの首筋に突き下ろした。もはや銃の間合いではない。アドバンテージは彼にあった。銃のままであれば。翻ったマントの下からブギーマンが鞘走らせた紫の光は、南北戦争時代のM1862軽騎兵刀が放つ殺しの輝きであった。
「イヤーッ!」ブギーマンが放つ流麗かつ破壊的な斬撃に、オニズカのニンジャ反射神経は対応できなかった。「グワーッ!」オニズカの左脚は膝下で切断され、倒れ込む。彼はそれでもなおブギーマンに掴みかかり、なお一太刀食らわせようとした。ブギーマンは回転している。そして後ろ足を繰り出す。
恐るべきカラテ蹴り技、メイアルーアジコンパッソ。ブーツの踵で高速回転する呪われし拍車が、オニズカの顔面正中線を両断せんと迫る。「イヤーッ!」「グワーッ!」一瞬早く、その切断線が逸れた。オニズカの背中を蹴ったのはザルニーツァだった。両断され吹き飛ばされたのは、オニズカの右腕だ。
「アバーッ!」倒れ込むオニズカの身体の下敷きになり、ジョンのシリンダーが砕けた。「アバーッ!」絶叫し、のたうつオニズカの横で、脳髄が無惨に痙攣する。血飛沫を浴びながら、ザルニーツァはスーツの下のボディアーマーに己のカラテを瞬時に伝導させ、プラズマ駆動の火を入れた。
そして彼女は……アイサツした。「ドーモ。ブギーマン=サン。アルカナム・エージェントのザルニーツァです」修羅場の只中、彼女が繰り出したアイサツが騒乱を噴き飛ばした。意志の糸に引き絞られた空気下、魔人は彼女に顔を向け……オジギを返した。「ドーモ……ブギーマンです」
アイサツは神聖不可侵。古事記にも書かれている。身を起こし、まっすぐに背を伸ばすと、ブギーマンは驚異の部屋の天井に帽子がつくほどに長身だ。「……アルカナム……覚えている……俺に……"名前"を……与えた……」声ならぬ声が、驚異の部屋に、あるいはザルニーツァの脳裏に、直接響いた。
歪んだ鍔広のカウボーイハットの下、影になったブギーマンの顔はおぼろで、口の動きは判ずることができぬ。ただ、闇の中で輝くふたつの眼は、邪悪な鎌じみて、刺々しく鋭利に、明確な嘲笑の表情を刻んでいた。ザルニーツァのニューロンが沸騰した。彼女はこの邪悪を知っている。邪悪のにおいを。
焦げ付く視界に、黒いトリイが、八芒星が、再び去来した。ザルニーツァは怒りと嫌悪を呼吸し、タント・ダガー二刀流を構えた。鋼の表面にスーツの駆動プラズマが伝い、閃光を生じた。対するブギーマンが選び取った得物は、さきの軍刀ではなく、アステカめいた翡翠のヌンチャクであった。
「イヤーッ!」ザルニーツァが動いた。「イヤーッ!」ブギーマンが翡翠のヌンチャクで打ち返す。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」稲妻めいたザルニーツァの太刀筋を、翡翠のヌンチャクは全て防ぎ切る。ザルニーツァは目を見開く。死が在る。
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