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S5第7話【トレイス・オブ・ダークニンジャ】#6

🔰ニンジャスレイヤーとは?  ◇これまでのニンジャスレイヤー
S5第1話【ステップス・オン・ザ・グリッチ】

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「ニンジャスレイヤー=サン。我が社のプロパティを回収して回っているのは貴殿だな」アルカナム2名の肩越しに、クルタナが言った。「貴殿は我が社のネオサイタマ展開において、決して小さくない懸念事項のひとつとなりつつある」「せいせいする話だ」ニンジャスレイヤーは睨み返して言った。

 クルタナは電子的に美しく咳払いした。そしてニンジャスレイヤーがヒキャクめいてスリング状に胸に縛ったフロシキ包みを見据えた。「量子レリックレーダー反応は誤魔化せはしない。なぜ集めている?」「レーダーなど知った事ではない。この荷物の中身を貴様に見せる必要も、おれにはない」

「実に難物だな」クルタナはプラズマカタナの柄に手をかけた。ザルニーツァが即座に反応。ニンジャスレイヤーの前へ動き、クルタナを牽制。彼女の両手には既にクナイが握られている。一方、ビル・モーヤマはニンジャスレイヤーの肩に手を置き、制した。振り払わせぬ素早さだった。

 そしてビルはクルタナに向かって言った。「所持品検査をしたいならば、ニンジャスレイヤー=サンがレリックの略取をしているという証拠を揃えたうえで、ユニバーサル・シティ法にもとづいたそれなりの令状を用意したまえ。暴力による強奪が御社の流儀なのかね?」白々しく、だが立て板に水。

「随分と、胡乱なヨタモノニンジャの肩を持つではないか、アルカナム=サン」クルタナは無機質なグリーンの目を不快感に眇めた。「其奴は反企業的存在だ。御社にも必ず被害をもたらす」「ご忠告痛み入る。だが、我々にも喫緊の問題がある。この件について譲るわけにはいかんのだよ」

「企業間の問題にしたいのか?」「望むところだ」ビルは言った。「博覧会開催の折、我が社は御社に事前に警告し、協力を要請していた。当時のやり取りの事実確認をしたまえ。御社の無関心と非協力が、今回のレリック散逸の事態を招いたという見方もある」「筋の通らぬ話だな」「さて、どうだろうか?」

「……」クルタナは内的IRC通信を行う。緑の目がほの青く変わり、また緑に戻った。「よかろう。KOLは寛大さを示す。今回は御社に譲ろう。アルカナム=サン」「それがよい」ビルは頷き、もう一度ニンジャスレイヤーの肩を叩いて前に出た。ザルニーツァがニンジャスレイヤーと向かい合った。

 ビルは懐に手を入れ、名刺を出す。そして腰を45度折り曲げ、クルタナに名刺を差し出した。「コウイウモノデス」「アリガトゴザイマス」クルタナは同様に腰を45度折り曲げ、自身の名刺を差し出した。互いに睨み合ったまま、二人のニンジャ・エージェントは名刺交換を行う。

 やり取りを見据えるニンジャスレイヤーの目を、ザルニーツァは覗き込んだ。そして小声で囁いた。「シトカでは。世話になった」そこに皮肉や非難のニュアンスはなかった。「お前の知った事ではないだろうが、私は……」「お互いに殺し合ったぞ」「それでも。……それだけだ」「そうか」

 ビル・モーヤマとクルタナが名刺交換を終えると、ザルニーツァは再び氷めいて冷たい職務遂行のアトモスフィアを纏う。クルタナはこれ以上は時間の無駄とばかり、早々にその場を去った。ビルが腕時計デバイスを操作すると、エメツ反重力リムジン・ビークルが屋上につけた。「乗り給え。話をしよう」


◆◆◆


 エメツ反重力リムジンは、少なくとも8人は収納可能な客室を持つ。ニンジャスレイヤーとビル・モーヤマ、ザルニーツァは向かい合うように硬いソファに座る。ビルはスパークリング・サケを3人分、グラスに注いだ。「あらためて強調する。危害は加えない。一方的に利用する意図もない。対等な情報交換だ」

「どうだかな」マスラダは強化ガラス窓越しにネオサイタマを見下ろす。ダークニンジャはKOLの攻撃に対処できたか。"ウシミツ・アワーにアワビの森で落ち合う" ……押し付けられた約束ではあったが、ダークニンジャがレリックを幾つか確保している以上、彼との話をあれで終わりにするわけにはいかない。

 ビルとザルニーツァは、言葉を発する事なく、マスラダの出方を待っていた。マスラダは唸り、テーブルに先程のヘウヤのヨーカンを投げ置いた。「貰い物だ。切って分けろ」「ほう」ビルは頷き、梱包を広げて、ナイフで手早く切り分け始めた。

 マスラダはスパークリング・サケを飲んだ。アルカナムの二人も、同様にグラスのサケを飲み干した。「カンパイできるめでたい出来事は、残念ながら何もないが。まずは感謝する」ビルは言った。「……さて。知っての通り、私のチームはこのネオサイタマでブギーマンを追っていた。君が博覧会屋上で爆発四散させた存在をだ」

 マスラダはサイバーサングラスをかけたビルの表情をはかる。暗黒メガコーポの人間が個人に対し譲歩的に振る舞うことは通常ありえない。焦りだ。ビルは続けた。「ブギーマンはUCA領内で発生した。発生、と呼ぶのは、サツガイ、アヴァリスなどと並ぶ、アヴァター級のニンジャであることを意味する」

「アヴァター?」「幾つかの事例より、我が社は特定の厄災的な超常存在をそのように呼称する。通常のニンジャ……ニンジャソウル憑依者(ソウルワイヤード)や、自発的に肉体を変容させたリアルニンジャ、あるいはフォーセイクンとは全く質を異にする存在として、この者らは定義されるのだ」

 マスラダは当然、ビルが挙げた者達の共通点を「体験」している。このエージェントはどこまでそれを把握し、アルカナムは如何にして情報を集めたのか。切られたヨーカンを口に運び、注意深く言葉を待つ。

「……ブギーマンは当初、さしたる脅威とは見做されなかった。物品を盗み、収集する程度の存在であると」

 ビルは話し始めた。「アヴァターに関する見識を深めたかった弊社は、ブギーマンを捕獲し、ペンタゴンの地下に繋ぎ止めた。だが、程なくして脱走した。レリックを盗むたび、それは信じがたいほど強大になった。それは海を渡り……恐らく文字通りに歩いて……ネオサイタマに上陸した。その最終目的はまったく不明だ」

「要するに、お手上げか」「それでも行動の予測は可能だ。我々はそれが持つ幾つかの習性を把握している。ひとつ。都市の一画に『巣』のような場所を作ること。ふたつ。古今東西のレリックを盗み出し収集すること。みっつ。……そのもとへ、サンズ・オブ・ケオスのニンジャが引き寄せられること」

 サンズ・オブ・ケオスについて、マスラダは敢えて見識を出さず様子を見た。ビルは語った。「ブギーマンの巣に集まる者のバックグラウンドには共通項があった。混沌の御子と称する存在の降臨を待ち望むカルト、サンズ・オブ・ケオスとの繋がりだ。御子とは、先に挙げたアヴァター、サツガイを指す」

 ビルはマスラダをじっと見た。「シトカで君が破壊したサツガイだよ。ニンジャスレイヤー=サン」「よく調べているな」マスラダはスパークリングを飲み干した。追加を注ごうとするビルの手を制する。「それで。あんたのチームは奴らの動きを調べ上げ、ダイフク・ビルディングに攻撃をかけたわけか」

 ビルの眉が動いた。「その通りだ。何人もの殉職者を出したよ。君も、あの場所へ?」「一足遅かった。おれが探していた物品も、あの場には残されていなかった」「成る程」ビルは腕組みしてしばし考え、言った。「では、君がブギーマンを追う理由も、何らかの盗難品という事かな。博覧会の一件より前に盗まれた?」

「……」マスラダは沈黙し……やがて答えた。「そうだ」だが、もはやそれだけでは済まない。ブギーマンは爆発四散し、レリックは撒き散らされた。いまだ、当初の依頼の品は回収できていない。ブギーマンに触れられたレリックには邪悪な影が付着し、名状しがたい悲劇の発端となる……。

ブギーマンは滅びていない。おれにはわかる」マスラダは言った。「サンズ・オブ・ケオスは昔、サツガイに実際に触れた奴らの繋がりだった。今は違う。そうありたい奴らをも取り込んで、数を増やし、痕跡に群がる。……ネオサイタマで、おかしな事が起こっている」「然りだ」「お前らの目的は?」

「君と同様だ。奪われたレリックを取り返さねばならない」「ブギーマンはどうする。おれの勘が当たっていたら。……捕まえて、ペンタゴン地下とやらに持ち帰るのか?」マスラダはビルを見据えた。やがてビルは低く言った。「……破壊する。あれを研究対象とした弊社の初期の判断は、誤りだった」

 ザルニーツァがビルを見た。ビルは厳かに頷き、マスラダに言った。「我々は同一の目的のもとで協力できる筈だ。市街に拡散したレリックは災いを引き起こす。協調してこれを回収し、ブギーマンに関する動きは都度共有する。回収したレリック群は、安全に弊社ストレージに……」「駄目だ」

「……」ビルはやや身を引き、ヨーカンを口にした。そして言葉を待った。マスラダは言った。「おれはあんたらをそこまで信用していない。はいそうですか、と渡すわけにはいかない」「では、どうする? サンズ・オブ・ケオスが今回のように再び嗅ぎつけてきた場合、どう対処する? KOLも厄介だぞ」

 ビルは言葉に力を込めた。「さきのやり取りを見た筈。弊社はKOLに対し毅然とした対応を取れる。弊社のストレージは探知能力に長けたニンジャに対策できる。少なくとも、ピザ屋の店舗よりもだ」「……」「ともあれ、君の懸念はもっともだ。ならば、企業らしく行かせてもらおう」

 ビル・モーヤマはサイバーサングラスを外した。カラテが研ぎ澄まされた。座ったまま、マスラダは警戒を高めた。ビルはザルニーツァを一瞥した。ザルニーツァが動いた。彼女が手にしたのはアルカナム社章が刻印されたファイルだった。注意深く、ファイルに閉じられた一枚を、二者の間に置いた。それは……契約書である。

「弊社アルカナム・コンプレックスは、貴殿ニンジャスレイヤー=サンの取得したレリックを弊社ストレージにて万全のセキュリティのもとで保管する。ニンジャスレイヤー=サンの要請がなされれば、いかなる理由があろうとも直ちにそれらを返却する」

 ビル・モーヤマは口頭で確認しながら筆記する。「あくまでレリックの一時保管に限ったシンプルな内容だ。他の件を縛れば、お互い面倒が増えるだろう。ゆえに、これだけだ。問題があれば指摘し給え」「……」マスラダは書かれた文言を数度確認した。やがて頷いた。「いいだろう」「うむ」ビルは懐から黒漆塗りのハンコを取り出し、素早く捺した。

 マスラダは指を爪で掻いて血を滲ませ、親指を押し付けた。そして言った。「おれをナメるなよ」彼は斜めにかけたフロシキを外し、卓上に置いた。「無論だ」ビルは応じ、アタッシェケースを開いた。「ネザーキョウの王のようになろうとは思わんよ」彼はほのめかした。マスラダは鼻を鳴らした。


◆◆◆


 一方、ダークニンジャ、フジオ・カタクラは!

 煙の尾を長く引いて湾岸方向へ飛んでゆくマグロツェッペリンを背後に、彼はKOLカタナ・オブ・リバプールのロイヤルニンジャ、ライオンハートとマークフォーを相手取っていたのである。

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