S3第3話【デス・フロム・アバブ・UCA】全セクション版
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ネザーキョウ南西、城塞都市トオヤマ、城塞外演習場。等間隔で設置された篝火は、ネザーキョウ航空戦力の為のガイド灯だ。即ち、空の悪魔……カイトを背負い縦横無尽に殺戮するノブスマ・ストームボーン隊の為の!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」空を滑りくる影の数々!
地上にありて、腕組み直立姿勢で影を見上げる屈強なニンジャの名はメタルファルコ。世界を股にかけた叩き上げの傭兵ニンジャであり、現在はネザーキョウで確かなカラテを認められたセンシであった。傷だらけのファルコン・メンポはいかめしく、その奥の眼光も剣呑である。
「ア……あれが……」メタルファルコの傍ら、惰弱にもスコープを用いてカイトの影を追っていたメジャーゲニンのサトが呻くように呟いた。「あれが例の……」「チッ。その通りだ」メタルファルコは不機嫌そうに頷いた。「あれがマイトイカラスだ」群れから先行し、ジグザグに飛翔する個体あり。
マイトイカラスの飛行は自己顕示の為のものだ。然り、あれほど大胆な飛行をカイトで行える者はそう多くない。少なくともメジャーゲニンには不可能な芸当である。「ピュールルルゥー!」口笛の音が空を裂き、そして彼は切り裂くように降下、カイトを一瞬で収納、メタルファルコの眼前に着地した。
「ドーモ。はじめましてメタルファルコ=サン。マイトイカラスです」虚無的な笑顔を浮かべ、マイトイカラスはアイサツした。メタルファルコはマイトイカラスを睨み、アイサツを返した。「ドーモ。はじめましてマイトイカラス=サン。メタルファルコです」「ヨロシク! ハッハッハ!」握手の手を差し出す。
一瞬の判断のあと、メタルファルコは握手に応じた。力強い握力である。「ここはホンノウジよりも空が爽やかだ。私のイサオシは、まさにここから始まるわけですなあ!」「そう願っている」メタルファルコは答えた。「でなければ、とんだお騒がせだ」「なあに、ご心配には及びませんよ!」
彼らの周囲に、続くカイト部隊が次々に着地し、オジギした。マイトイカラスは今回の電撃的作戦の為に中央から派遣されてきた増援部隊の長であり……タイクーンの寵愛を受ける気鋭のセンシであった。すなわち、修業によって短期間のうちにカラテを高め、実際にカイデンしたリアルニンジャなのだ。
このネザーキョウには玉石混交のならず者のモータルが人生の一発逆転を夢見て集まってくる。タイクーンはそうしたチンピラにコクダカを与え、ゲニンにする。彼らの望みは冒険と武勲を経て、実際に強大なニンジャ存在になる事だ。ブルシットである。少しカワラを割って木人を叩いて超人に? 甘過ぎる。
だが、このマイトイカラスのように、本当に修行によってニンジャとなった者も存在する。メタルファルコはそれが事実だと認めざるをえなかった。飛行技術と握手のカラテで明らか。噂は本当だった。つまり、極稀に、実際にニンジャになるものが居るのだ。恐らくはコクダカと……さらなる何らかの秘密。
メタルファルコは注意深くマイトイカラスのカラテの程を測った。当然、ニンジャソウル憑依者として経験を積んだ彼ほどではない。だがタイクーンにとって、修業を経てゲニンからニンジャとなった者の価値は高い。成功の実例であり、より多くの志望者を国内外から集める広告塔たり得るからだ。
実際、メタルファルコの隣で、サトは興奮を隠しきれない。「私にも握手を。サトと申します」「ハハッ! 勿論。ヨロシク! サト=サン」虚無的な笑顔で応じ、握手した。見せつけるように握力を込め、ミシミシと音が鳴ると、サトは歯を食いしばった。「君らの働きを期待する」メタルファルコは言った。
「お任せを。彼らは私と共にジゴクの飛行訓練を生き延びた精鋭ですよ! トオヤマのノブスマ部隊はこれでまさにネザーキョウ最強」「フン。その自信のほどを示す機会はすぐに訪れるぞ」メタルファルコは踵を返した。「来い。営舎を与える」「ハイヨロコンデー!」
二人は共に並んで歩いた。そのあとをノブスマ隊がついてくる。訓練中のゲニン達はマイトイカラスの姿を見ると、興奮した様子で互いに囁きあった。(オイ、あれ)(マジだぜ。リアルニンジャの……)(さすがだぜ)(仕上がった身体してやがる)(羨ましいよなあ!)
「ネザーキョウの星!」バンブー・ジャンプ訓練中のゲニンの誰かが叫んだ。「ハッハッハ!」マイトイカラスは手を振った。メタルファルコは鼻を鳴らした。コイツの笑顔は気に食わない。偶像役をすすんで買って出て、心にもない笑顔を振りまいている。自分の価値を過大評価したクソ野郎だ。
「お前がミヤコでどんな扱いを受けてきたのか知らんが、勘違いするなよ」メタルファルコが言った。「俺はあくまで部下として貴様を扱う。特別扱いはせんぞ」「ハハッ! 当然ですよ!」マイトイカラスの笑顔はメタルファルコに向いた。虚無的な笑顔の奥に、鼻持ちならない挑戦的態度を隠さない。
「貴方がノブスマの隊長を勤め……私は勉強させて頂きます! たしかに私は貴方がたとは比較にならぬ才に恵まれ、選ばれた存在ですが、あえて貴方にナメた真似をするつもりは微塵もありませんよ。無駄ですからな。ゆえに、嫉妬なさいますな! 貴方はしっかりと職務を果たし、私はその体験を持ち帰って、中央に報告いたしますとも」「さすがはタイクーンのお気に入りだな」「ハハッ、おわかりですね?」
メタルファルコは営舎で彼らを歓迎した。ホールには「ホンノウジ若き英雄ご歓迎」とハイク・ショドーの垂れ幕が飾り付けられ、タイの活造りがイタマエの手で準備されていた。「これからは俺が貴様らの命を預かる。だが今は……カンパイ!」「カンパイ!」さざめき、談笑、舌鼓。
「いいサーモン・スシだろ。ここのサケにあう」宴の中、上機嫌でオードブル・スシをつまんでいたマイトイカラスに、再びメタルファルコは近づいた。「ハハ、ありがとうございます。ホンノウジは勇壮壮麗なるミヤコ。トオヤマは一体いかほどかと思っておりましたが、なかなかどうして」「だろう」
マイトイカラスはグラスのサケをグイと飲み干し、笑った。「今日はブレイコといったところですか。つかの間の平和を楽しみ、英気を……」「うむ。貴様、なかなか肝の据わった奴だ」メタルファルコは褒めた。「盃をかわすとしよう」上り階段を親指で示す。マイトイカラスは頷く。「いいでしょう」
メタルファルコはマイトイカラスを自室に案内した。壁には「不如帰」のショドー額縁や、タイクーンのバストアップ肖像画があり、神棚にはフクスケが飾られている。メタルファルコは奥のガラス棚に向かった。「秘蔵のサケがあってな」「それは素晴らしい! ハハッ!」
陶製のゴブレットを渡し、透明なサケを注ぐ。「俺はな……初めてカイトを背負ったのは、東欧の空中戦だった。あの頃はスダチカワフとタルカ・タタンがえらく揉めてな……俺はタルカ……負けイクサの側だった」「興味深いですなあ」「凄まじかった。俺一人に、戦闘機七機。犬のように追われてな」
「そんな中を生き残ったのですか? いやはや!」「仲間は既に全滅だ。奴らは楽しんでいた。俺は生きることだけ考えた。なあ、ドッグファイトが極まってくると、わかるか、どっち側が空かわからなくなる。つまり、宇宙と大地が、上なのか下なのか。右か左か」「わかりますとも。あれは恐ろしい」
「わかるだと? 違うな。お前は……お前はジゴクを知らない」メタルファルコはマイトイカラスを睨んだ。「何百枚のカワラを空中踵落としで割ろうと……センセイにどれだけ棒で叩かれようと……わかりはしない。本当のジゴクはな」「ハハハ、そんなものは経験の有無に過ぎない。私もすぐに知ります」
「そうか。素晴らしいぞ」「私はリアルニンジャですから」「そうか。飲め」「……」マイトイカラスはゴブレットを口元に持っていく。だが、傾けることができない。マイトイカラスは訝しんだ。「どうした? 飲まんのか」と、メタルファルコ。「俺のサケが飲めんのか?」「いいえ。……?」「妙だな。では、なぜ飲まない」
もう一度マイトイカラスは試みる。盃を傾けることができない。メタルファルコは最小限の動きで彼の肘に手を添え、その動作を妨げていた。さりげなく、だが、断固として。「俺の、サケが、飲めんのか?」「バカバカしい真似を」「何がだ?」「子供じみた……」「カラテひとつだ、マイトイカラス君」
マイトイカラスは三度試みようとした。メタルファルコは許さなかった。「このッ!」マイトイカラスは振り払おうとした。メタルファルコはその手を捉え、逆の腕に重ね、盃を奪い取った。そして頭突きを食らわせた。「イヤーッ!」「グワーッ!」よろめく!「イヤーッ!」「グワーッ!」腹に蹴り!
KRAAASH! 椅子を倒し、マイトイカラスは倒れ込んだ。「ゴボボーッ!」「オイオイ……アブナイぞ、サケが溢れちまうだろう。せっかくの俺の盃をブチ撒ける気か。感心せんな」メタルファルコはゴブレットを机に置いて、マイトイカラスの後頭部を踏みつけ、吐瀉物ににじらせた。「嫉妬が、何だって?」
「こ、こんな事をして……」「タイクーンが黙っていないと?」メタルファルコは踏みつけの力を強める。「陛下はションベンちびりながらチクりを入れるような惰弱なニンジャに良い顔はせんだろうよ」「クソーッ!」マイトイカラスはメタルファルコの足をはね上げ、転がって起き上がりカラテを構えた。
「盛り上がってきたな。来い」メタルファルコは手招きした。「イヤーッ!」マイトイカラスが殴りかかる!「イヤーッ!」「グワーッ!」マイトイカラスの顔面にハイキックがヒットした!「イヤーッ!」「グワーッ!」追い打ちのケリ! マイトイカラスは受け身を取り、再び向かっていく!「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」掌打がマイトイカラスの顔面を捉える!「イヤーッ!」「グワーッ!」腹にショートフック! くの字に身を屈めたところ、首を抱え、締め上げる!「いいか、貴様は足手まといの青瓢箪のガキだ。二度と上官の俺にナメたクチを訊くな」「グワーッ!」「ワカッタカ!」「グワーッ!」
締められながら、マイトイカラスは果敢にメタルファルコの肋を殴りつけた。メタルファルコは血走った目を笑顔に細めた。「イヤーッ!」「グワーッ!」締めたまま、膝を曲げて足を跳ね上げ、足裏でマイトイカラスの顔面を打擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「もう一度言ってみろ!『ボクはリアルニンジャだぞ!』そうやって訴えてみろ!『タイクーンに言いつけるぞ』でも構わん!」「クソ……クソーッ!」マイトイカラスは食いしばった歯から出血し、瞬間的な力を爆発させ、強引にメタルファルコを投げた!「イヤーッ!」「イヤーッ!」
メタルファルコは投げ飛ばされながらマイトイカラスの襟首を掴み直し、逆に床に叩きつけていた! KRAAASH!「グワーッ!」大の字になり、マイトイカラスは一瞬昏倒した。すぐに覚醒した。メタルファルコは手を差し出した。「立て」手は払い除けられた。メタルファルコは逆の手を差し出した。
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