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S3第2話【エッジ・オブ・ネザーキョウ】#6

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 ネザーキョウの前線都市ヤマザキとUCA領のプリンスジョージを南北に隔てるのがネチャコ川だ。対岸はそう遠くない。その際どい流れが、全く異なる二つの文化を隔てるラインであった。

 文明人類にとって残念なことに、境界線であるこの川もまた、ネザーキョウの支配下にあった。白装束でジェットスキーを駆り、船から船へ飛び渡り、邪悪なカラテで攻撃する「アケチ水軍」に、暗黒メガコーポの通常戦力は対抗するすべを持たなかったのである。

 取るに足らぬゲニンといえど、ニンジャの一種。しかもアケチ水軍を構成するのはゲニンばかりではない。ニンジャソウル憑依者も一定数含まれていた。彼らはキンカク・テンプルから降り来たったニンジャのソウルを憑依融合させた者らであり、修行中のゲニンとは比較にならないカラテを持っていた。

 たとえば、今こうしてネチャコ川の水面に直立して腕組みしている恐るべきニンジャ、スピアフィッシュは、まさにそうしたニンジャソウル憑依者であった。一体いかなるテクノロジーで彼は水面に立っているのか? テクノロジーではない。カラテだ。正確には、足に装着した「ミズグモ」と、カラテである。 

 プリンスジョージ側の岸を見よ。残骸と化した複数の戦車がいまだに放置されているのがわかる筈だ。戦車はどれも先日の小規模戦闘の折、車体を複数の投げ槍で貫かれ、爆発し、焼け焦げてしまっている。全ては彼の投げ槍の仕業である。ミズグモで自在に水上をスライドし、槍で攻撃する。悪夢であった。

 当然、UCAにもニンジャ戦力は存在する。だがイクサにおいて決定的な存在感を示すほどの層はなかった。UCAは所詮、複数の企業の寄り合い世帯。優先すべきは各社が地球上あちこちに保有する個別の企業領土である。ニンジャの投入数、士気……ネザーキョウには全く及ばないのだ。

 しかし今、このスピアフィッシュは何をしているのだろうか? もっと詳細に見てみるとしよう。……ナムサン。彼の傍にはイカダが停止している。イカダの上には拘束されたUCA兵士が五名、正座させられ、スピアフィッシュ配下のメジャーゲニンにボーで小突かれていた。「始めるか」ニンジャは言った。

「アイエエエ」兵士の一人は年若く、すでに意気挫けていた。スピアフィッシュは新兵らしきその若者のもとへ滑るように移動し、目を細める。「何か誤解しているな。お前、名前は?」「ルーカスです」「ルーカス=サン。今からお前を……」「アイエエエ」「ボトルネックカットチョップするとでも?」

 新兵は激しく震え、首を振った。メジャーゲニンが笑った。スピアフィッシュは続けた。「俺は誇りと勇敢さ、そしてカラテを尊重する。強さ。そして勇気。それこそがセンシに求められるべき概念だ。捕虜の自由を奪い、チョップで処刑するなど……まったくもって、よくない。野蛮だ」

「UCAは……我らの仲間は、必ず貴様らに報いる」隊長格の兵士がスピアフィッシュに吐き捨てるように言った。「今日俺達が倒れても、明日は仲間達が……!」「勇敢な男だ。ならば、よかろう」ニンジャは頷いた。「オイ、外してやれ」「ハイ!」メジャーゲニンが拘束を解いた。兵士は不思議そうにした。

「つけてやれ」「ハイ!」メジャーゲニンは足元にあるアイテムを取り、兵士の足に装着した。それは靴の下に取り付ける平たいアタッチメント……即ち、ミズグモであった!「種も仕掛けもない、板のようなものだ。当然エメツでもない。だがカラテあらば、俺のように水上を自在に歩くことができる代物」

「何だと? これは……」「俺はチャンスをやろうというのだ」スピアフィッシュは静かに言った。「お前の勇敢さに期待している。部下どもに手本を見せてやるといい。真の勇敢さがあれば、そのミズグモを使って、川を渡り、お前らの領地に帰る事ができるはずだ」「何をバカな!」「俺がバカなのか?」

 メジャーゲニンはスピアフィッシュの指示を受け、急かすように処刑カタナを抜いた。「……!」兵士は悔しげに歯噛みし、最終的に、従った。イチかバチかに、賭けるのみだ。「ウ……ウオオーッ!」彼はイカダから跳び、ミズグモを履いた足で着水! ……落ちない! ゴウランガ! だが、徐々に沈み始める!

「ホラホラ! 急げ!」スピアフィッシュは手拍子を打った。兵士は必死に足を動かした! 水面を滑り始める! いける……! 案外に、いけるものだ!「ガンバレ!」「隊長、どうか!」兵士たちは泣きながら声援を送る!「ウオオーッ!」

 ……「イヤーッ!」スピアフィッシュはヤリを取り、投げた。

「アバーッ!」ヤリは無慈悲に隊長格の背中を貫通! ナムアミダブツ! 飛沫とともに沈む!「……今のがチュートリアルだ」スピアフィッシュは言った。「残り四名は全員同時に開始だ。上官の尊い死を胸に刻み、必死でやるといい。俺は一度に一本ずつしかヤリを投げられない。チャンスはあるぞ!」

「ウ……ウオオーッ!」新兵はヤバレカバレでイカダから跳んだ! 他の三人も続く! 哀れなミズグモ水上レース、スムーズに水上を進める者も、苦労する者もいた。スピアフィッシュはゆっくり10数えた。咳払いした後、ヤリを取った。

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」 「イヤーッ!」「アバーッ!」 ナムアミダブツ……ナムアミダブツ。

「さすがですスピアフィッシュ=サン!」メジャーゲニンが手を叩いて喝采した。「敵に温情を与え、カラテも見せて真のセンシでやす!」「そう思うか? ン?」「アケチ水軍にスピアフィッシュ=サンあり! その評判がUCAに轟きわたる事でありやしょう! ア……でもコイツらも死んじまいやしたねェ! 伝えられねえやァ! ヒャアーッ!」

「死人にクチ無し! ハッハハハハ!」「ヒャーヒャッヒャッヒャッ!」何たる残酷! だがこうした捕虜虐待も、ネザーキョウのイクサの前線においては、チャメシ・インシデントなのだ!

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