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S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】全セクション版

総合目次 全セクション版
分割版:◇1 ◇2 ◇3 ◇4 ◇5 
◇6 ◇7

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「ドッソイ!」「ドッソイ!」「ドッソイ!」「ドッソイ!」リベットつきの革マワシを身に着けたスモトリが人力操作するエレベーターが、二人のニンジャを迎え入れ、チャリチャリと鎖の音を立てて上昇を始めた。「これはこれは何とまあ」不快なニヤニヤ笑いのニンジャは眼下の光景を見下ろし、驚嘆した。

 城塞都市カメヤマ。かつてレジャイナと呼ばれた地に築かれた、武の城。スモトリ達の手押し車を動力インフラとして、様々な歯車機構が絶えず駆動し、煙突からは黒煙が吐き出され続ける。歯車、ハンマーの鍛冶音に混じって、鞭打つ音や悲鳴も聞こえてくる。まこと武の城、カラテの城であった。

「なんと無駄……いやシツレイ……雄々しく畏怖すべき、筋肉の神殿とでもいうべき城塞であることか」そのニンジャ……クローザーは、まわりくどく煙に巻くような語調で、城下町の感想を述べた。同乗の者は、キモノの下の身体を包帯で覆ったニンジャである。彼の名はクセツ。アケチ・シテンノが一人。

 紫の火を燃やす彼の目が、クローザーのニヤニヤ笑いを、じっと見つめた。「その軽口を閉じておいたが身の為だ」「クキキ……勿論だ」クローザーはオジギした。「君は僕の最大の理解者! そんな君の不利益となる言動は、当然、親王様の御前においては厳かに慎むからして。今だけだよ、今だけ。ムフ!」

「ジョウゴ親王は地獄耳であらせられる」「オット! ならば気をつけた方が良いか。君と共にカマユデのスープになるのは御免被りたし。なに、たとえばあのティアマト=サンの魅惑的肢体とともに入浴するならばカマユデもやぶさかでないが……」ガゴーン。人力エレベーターが目的階に到達した。石と鉄の城の天守フロアに。ゆっくりと鋼鉄フスマが開く。

 廊下にはロイヤルガードが待機しており、厳かにオジギした。クローザーはクセツと一瞥をかわす。天守フロアに立ち込めている、皮膚を刺すような敵意。確かめるまでもなく、城主が放つニンジャアトモスフィアだ。(ここまで漂ってくるとは、たしかに中々)クローザーは目を細める。

 通路の壁には水晶ガラスの窓がある。クローザーはそこから城下、城壁外に配置された青銅の逆関節巨大甲冑を垣間見た。しなやかで、長い首を持ち、まるでツルのようでもある。(アレが、アレかね?)クローザーは歩きながらクセツに目で問うた。クセツは頷いた。

「オナーリー!」シャン、シャン、シャン……。飾りフスマが開かれ、二人の眼前に、タタミが敷き詰められた広大な広間が広がった。空を背に、ジョウゴ親王がアグラで座していた。彼の肘置きはウルシ塗りで、奇怪な棘で飾られ、黒から紫のグラデーションで絶えず色を移り変わらせている。

 ジョウゴ親王の傍らには美少年のコショウが緊張の面持ちで立ち、大ウチワで絶妙な風を送っていた。ジョウゴ親王はエボシの下、青ざめた痩せ顔を俯かせ、黒く長いあごひげを長い指でしごいていた。やがて吊り上がった目を上げ、その恐るべき三白眼で、クセツとクローザーを睨んだ。「来おったな」

 クセツはゆっくりと最オジギした。クローザーは彼らを見比べた後、そのオジギに続いた。「ヘヘェ……」「ワシがアケチ・ジョウゴ。偉大なるタイクーンの唯一の子じゃ」ジョウゴ親王はアイサツした。「ゴキゲンヨ。クセツです」「クローザーと申します。以後お見知りおきをば……」「汚らわしい」

「汚らわし、エッ? 何と?」クローザーはパチパチと瞬きした。ジョウゴ親王の手にはいつの間にか長弓が構えられていた。「汚らわしきは貴様のクネクネがましい陰謀のニオイじゃ」「そんな! さすがに酷い……」「ゆえに運を試してやる! エイッ!」ジョウゴ親王は矢をつがえ、ケイトーを射た!

 ハッシ! 放たれた矢はクローザーのこめかみの横にあった。……あった。然り。静止していた。クローザーはわずかに顔を左へ傾け、親指と人差指で、空中に静止した矢を支えていた。雑作もなく、受け止めたのである。何たるカラテか。クセツの燃える目が警戒の光を帯びた。

 クローザーは笑顔になった。「運はともかく、我がカラテのいくばくかの真摯は示せましたかな、親王殿下」矢に緋色の稲妻がパチパチと走った。クローザーはその場で正座し、膝の上に矢を置いた。「……フン」親王は鼻を鳴らし、大弓をコショウに投げつけた。オジギ継続のクセツに問う。「それで。献策とは何ぞ。申せ」

「……かの、オベリスクについてでございます」クセツは厳かに切り出した。「あれの話とは思うたわ」親王は顔をしかめた。クセツは続けた。「このクローザーと共に、ホンノウジにて文献を求め、一定の事実に至りましてございます。……あれはギンカク。間違いなし」「それだけか?」

 スウーッ……。クセツは息を深く吸い、座して、前に身を傾けた。「あれを直接調べる許可をいただきたいのです。さすれば、親王陛下に無限のカラテと栄光を、必ずや」「……クセツゥ……」親王の目がギラリと光った。その輝きには無数の感情が込められていた。敵意。猜疑心。残忍。そして、不満!


【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】


 サスカチュワン東南部、エステバンには現在、タイクーンによって「ヤガミ」の名が与えられている。その先にはサンドストーン丘陵と呼ばれる奇岩地帯が広がる。岩山から抉られ、天から投げつけられたような巨石が、丘のあちこちに突き刺さり、荘厳な景観を作り出しているのだ。そして見よ。その丘の一つ。岩陰に不気味な馬が二頭、横並びに、じっと静止していた。

 大きく、黒く、鬣は炎めいて定かならぬ輪郭、じつに奇妙な馬であった。実際それは尋常の馬ではなく、黒帯を締めた単なるカラテ馬でもない。ネザーメアと呼ばれる超自然の馬であった。馬の傍らには「明智」の旗が突き立てられており、二人のニンジャが焚火を囲んでいた。

 彼らが食する火炙りの串刺しのダンゴは、内なる残虐性を暗示しているように思えた。「おい」一人がダンゴの咀嚼を終え、切り出した。「感じるぞ」「……そうか」もう一人が立ち上がり、焚火を蹴り散らした。旗に手をかける。竿に吊るされた恐るべき青銅のウインドチャイムを凝視する。

 ……リーン……リーン。彼らが耳傾けるうちに、ウインドチャイムの響きが徐々に大きくなる。「お前の予感が当たったぞ、クロスファイア=サン」ナギナタを背負ったニンジャ、ディヴァイダーが言った。「予感ではない。確信だ」クロスファイアが答えた。「そして、やはりな。インターネットは近い」

 彼らの会話、ウインドチャイム、そして傍らのネザーメアが示す恐るべき事実。それは、彼らがかの悪名高きWi-Fi狩りの黒き斥候部隊、「テツバ・ドラグーン」のニンジャであるという事だった。揃いの黒いニンジャ装束に身を包み、特別な訓練を受け、ネザーメアを賜った精鋭集団……!

 皆さんがご存知の通り、ネザーキョウにおいてインターネットは惰弱と見做され、厳かに禁止されている。「Wi-Fi狩り」。それは偉大なるタイクーン、アケチ・ニンジャ自らが全土に投げた号令だ。地下に埋没した無数のIPアドレスにプロキシ接続してネット行為を行う者達の根絶……至上の命令であった。

 このサンドストーン丘陵地帯は広大な無人の荒野であるが、依然、インターネット行為が強く疑われていた。丘陵地帯に点在する巨大なパラボラアンテナの遺跡が、領主であるジョウゴ親王の疑いを呼んでいるのである。市街地であればヒケシによるダウジングでネット探知が可能。荒野ではそうはゆかぬ。

 テツバ・ドラグーンの探知能力は、ヒケシのダウジングの比ではなかった。ヒケシは所詮はゲニンである。一方、テツバを構成するのは強力なセンシのニンジャ達だ。持ち合わせるニンジャ第六感の、モノが違う。加えて、旗に結ばれた異様なウインドチャイムの力がある。

 吊るされた複数の金属のチューブがオシベだとすれば、メシベじみて中心に吊られた菱形の重りが、この超自然探知機の肝だ。インターネットのデータ・ストリームを感じ取ると、この菱形が変色。特定の周波数でチューブを揺らす。皆さんが日頃触れているインターネットが超自然の産物である事の証明だ。

「もう少し手間がかかると思っていたが、幸運に恵まれたな」ディヴァイダーが呟いた。現在、テツバ・ドラグーンはサンドストーン丘陵に散らばり、広大な荒野を探し続けている。「ファーネイス=サンやナウジア=サンに連絡を取るか?」クロスファイアが問う。

「バカを言うな。手柄だろうが」ディヴァイダーは不敵な笑みを浮かべた。「奴らには時限発火のノロシの一つでも上げておいてやればよい。狩りの初手は我らがいただく。そのうえで、おこぼれをくれてやろう」「フフッ。確かにな」クロスファイアは目を細める。彼らは支度を整え、焚火に時限ノロシを投げ込むと、ネザーメアに跨った。

 テツバ・ドラグーンはこの広大極まる丘陵に、彼らを含め8騎が散らばっている。彼らには特別な水晶アミュレットのオヒガン・スピリットを媒介した通信が許可されている。仕組みはインターネットに類似しているが、タイクーンはそのような細かい事は気にしない。彼らは惰弱やSNSとは程遠いセンシ故。

 二人は今回、アミュレットの通信を使う事をやめた。時限式ノロシが、時を置いて、他のドラグーン達に彼らの発見を伝えるであろう。「ハイヤーッ!」二人はネザーメアに拍車をくれ、丘を駆け下りる。チャイムが示す方角は廃アンテナの巨影の一つ。超自然の蹄鉄痕が丘の斜面に黒く燃え、彼らの瞳は狩りの高揚に不穏な光を強めた!


◆◆◆


 ウォルルルル! マスラダが急にシグルーンをドリフト停止させた為、並走していたコトブキはオフロード・バイクをつんのめらせた。「グエーッ!」コトブキの後ろにしがみついたザックが背中に顔面をぶつけて悲鳴を上げた。コトブキのバイクは道中に調達し、丁寧に錆を落として修理した代物である。

「どうしました?」「……嫌な感じだ」マスラダは頭を押さえた。「頭の奥を撫でられたような……チッ……」「穏やかではありませんね」「ネオサイタマでも、時々あった事だ。初めてではない」「……対処可能ですか?」「ああ。タキの奴と調べた事がある。出力の強い無線探知を受けると、感じるんだ」

「ッて事はさ。ここ、もうネザーキョウだろ。こんな……誰もいない荒れ地だけど……」ザックは奇石の散らばる丘を見渡した。「ヒケシの奴らがインターネットを取り締まってるのかな……?」「大丈夫でしょうか?」コトブキは確認した。マスラダは頷いた。「ああ。閉ざすのは簡単だ。だが……」

 マスラダは二人を黙らせると、ニューロンを研ぎ澄ませた。広い空の下で、彼は探知の波が飛んできた方角に注意を向けた。この地に人の姿は無い。ゆえに、ニンジャソウルの蠢きがあれば……。「……」彼が険しい目を向けた方向には、巨大な廃パラボラの影があった。


◆◆◆


 眠りは浅く、不安だった。見た夢の内容は思い出せないが、嫌な夢だった。身体は鉛のように重く、起き上がることもできなかった。「ア……」ナインの視界には、ずんぐりした白い防護服を着た見知らぬ誰かの姿があった。ナインは寝袋に寝かされていた。武器を探す。「ン。目が覚めた?」女の声だった。

 防護服で頭から爪先まですっぽり覆った女は、ナインのもとに歩いてきた。ナインはパニックに陥りかかったが、暴れる力は無かった。記憶が戻ってくる。彼女は旅の中で熱病に罹患し、意識不明の状態に陥ったのだ。では彼女の上司は……ヨロシサン・インターナショナルのCEO、ヨロシ・サトルはどこに?

「そうか。今まで貴方、意識もなかったから……」防護服の女は気遣わしげに言った。ナインは警戒を緩めた。「これは……私は。貴方のその格好は?」「ああ、これは平気。この場所が汚染されているという意味ではないから」「……」「私はルシール」女は自身を指差した。

 ナインが反応する前に、ルシールは彼女を指差した。「そして貴方はナイン・トオヤマ。ヨロシサン・インターナショナルの秘書で、ヨロシ・サトルCEOに同行している」「……!」「大丈夫。CEOが貴方を私達に紹介してくれたのよ。ほら」ルシールは名刺を示した。確かにそれはヨロシ・サトルCEOの名刺だった。

「覚醒したのか」戸口に防護服の男が現れた。ルシールは頷いた。「ええ、パット」「それは何よりだが……」「う……」ナインは呻いた。起きられない。ルシールは手袋を外し、彼女の額に触れた。「そうね。ただ休むだけでは、よくならない。もう少し辛抱して」「CEO……」「彼は出かけている」

 ルシールは経口補水液のパックにストローを刺し、差し出した。「私達の仲間と貴方のCEOは "谷" に向かった。ファストストリームが直接の面会を求めたの」「CEOは嫌がっていたが、結局は従ってくれた。申し訳ないが、この地では我々も用心を重ねている。ルールは守ってもらわねばならない」「……」「私はパトリックだ」「……ドーモ」

「君の罹患した病はサンドストーンの一種の風土病だ」パトリックは説明した。「谷に行けばワクチンの備蓄がある。君をこのまま動かすのは危険だから、我々と残ってもらった」「貴方達は……ネザーキョウの市民の方ですか?」「フフフ。否、お尋ね者だよ」パトリックは笑った。「我らはリコナーだ」

「リコナー……」ナインはその事実を歓迎したものかどうか、はかりかねた。ナインは有能な社長秘書であり、ジュドー28段、ショドー30段、オコト45段のワザマエを持ち、世界情勢にも極めて明るい。当然、ネザーキョウに潜伏するインターネット利用者「リコナー」の存在も、知識として持ってはいた。

「リコナーは特徴的な認識番号を名乗ると聞いていますが」「ええ、その通り」ルシールは頷いた。「私はDD-022。パットはLL-004。でも、互いに呼び合うには、ちょっと冷たいでしょう?」ルシールは肩をすくめ、パトリックを見た。彼らの間には仕事仲間以上の親密さが共有されているのがわかった。

「その……ありがとうございます」ナインは言った。「感謝が遅れてすみません……」「混乱するのも無理はない。横になりなさい」パトリックはやさしく促した。ナインは従いながら、なお問うた。「貴方がたはこの丘陵地帯に隠れ住んでいるという事なのでしょうか。ネザーキョウの監視を避けて……?」

「そんな所ね」ルシールが答えた。「我々は "谷" に住む。谷の長はファストストリーム……彼はA-1、つまりリコナーの始祖であり、"谷" は我らリコナーが帰る場所なのよ」「そこにはインターネットがあるのだ」パトリックが頷いた。「この地にもネットは生きている。本当はね。真実はそこにある」

「そうか……」ナインは呟き、ぼんやりした頭で、考えを巡らせる。国民の移動の自由を禁じ、インターネットを禁止するネザーキョウで、リコナーは迫害されながら生きている。そこに暗黒メガコーポのCEOその人が現れたとなれば、接触をはかろうとするだろう。そして何らかの助力を乞うのではないか。

「"谷" は隠されている?」「ええ。この丘陵から、さらに奥にね。かつてはこのアンテナ地帯にもリコナーの村はあった。でも滅ぼされてしまったわ」「……以来、幾つかの物資はヤガミの街に求めにいかなければならない。定期的に、旅が必要なのだ。我らが君達と出遭ったのは、その途上においてだった」

「さあ、もう少し眠りなさい。じきに彼も戻ってくる。ワクチンを携えてね」パトリックが言った。ナインはひとまず納得し、眠るために目を閉じようとする……。

「ワンワー! ウォーワワワ!」三人は驚いて、戸口の叫び声を見た。部屋に飛び込んできたのは、ナムサン! 黒帯を締めたナキウサギ、カラテナキウサギである!「アイエエエ!」ナインは悲鳴を上げた!

 彼女の脳裏にフラッシュバックしたのはモミジの森で襲いかかってきた獰猛なカラテムースやカラテビーバーであった!「アイエエエエ!」「待て! 落ち着きなさい!」「彼は仲間なの!」二人が説明した。「彼!?」

「ウォーワワー」カラテナキウサギはジャンプし、手振りで伝える。ずんぐりした120センチほどの生き物は、しきりに外を示している。ナインは呆気にとられた。だが、説明を待たず、更に一人、防護服の男が入ってきた。どうやらこの建物の外で、このカラテナキウサギと共に哨戒をしていたようだ。「まずいぞ! ネザーキョウの騎士だ!」「騎士だと!?」

「どういう事!」ルシールが血相を変え、壁に立て掛けてあったライフルを掴んだ。外に居た防護服の男は「わからん!」と叫び返した。「白装束のゲニンではない! あんな連中は見たことがない。一直線にこの施設をめがけて来……」BLAMN! 彼の頭は後ろから撃ち抜かれた! 倒れ込む男!

「ウォワー! ワルワルワル!」カラテナキウサギが叫び、跳ねた。BLAMBLAM!「アバーッ!」毛皮にくるまれたこの不思議な生き物をも銃弾は容赦なく撃ち抜き、黒帯を弾け飛ばせて絶命させた。ナムアミダブツ! たちまち作られた二つの死体を蹴りのけ、黒いニンジャがズカズカとエントリーする! 手には二挺拳銃!

「ア……アイエエエ!」ナインは悲鳴をあげ、鉛めいて鈍い体を強いて、寝袋から這い出した。ルシールとパトリックが叫び声をあげ、ライフル銃を向ける。ニンジャは銃口を前に少しも怖じず、二挺拳銃を指先でクルクルとスピンさせた。そして撃った! BLAM! BLAMN!「グワーッ!」「ンアーッ!」

 銃を取り落しうずくまるルシールとパトリックを前に、ニンジャは再び拳銃をスピンさせる。「ドーモ。我はアケチの恩寵賜りしテツバ・ドラグーンのセンシ。クロスファイアです」彼は高圧的にアイサツした。「まだ殺してはおらん。貴様ら、インターネットのニオイがするな」

 ナインの心臓が早鐘めいて打つ。この状況。この体調。いかに動くべきか。いかにして切り抜ければよいのか……!「ルシール!」パトリックがルシールを庇うように動き、彼女の膝元のライフルに手を伸ばした。クロスファイアの両手が霞んだ。BLAMBLAMBLAMBLAM!「アババーッ!」連射! パトリック即死!

「なにゆえ抵抗する? 愚かなのか? やはりインターネットに頭をやられているな」クロスファイアは抑揚の薄い声で呟いた。スピンさせた拳銃はピタリと止まり、銃口が、ルシールと、その後ろのナインに定まった。「パッ……ト……?」ルシールが震えた。撃ち抜かれた彼女の肩と、返り血を浴びた膝が真っ赤だ。

「これ以上わずらわしい真似をするな、リコナーよ。そして……」クロスファイアは眉根を寄せる。防護服を着たリコナーと違った佇まいのナインを訝しんだのだ。その一瞬のうちに、ルシールは覚悟を決めた。「窓よ!」ルシールは叫び、立ち上がり、クロスファイアに掴みかかろうとした! ナムサン!

「チッ……!」BLAM! BLAM! BLAM!「ンアアーッ!」銃声、悲鳴を聞きながら、ナインは窓をめがけて全力を振り絞った。カジバチカラ! 幸運にも窓は開いている! ナインは窓を乗り越え、向こう側へ落ちた!「ンアーッ!」天地がグルグルと回転し、吐き気が迫り上がり、心臓が乱れ打つ!

 窓の外は屋外! 丘陵地帯を、転びながら、ナインは走った。「裏だ! 一匹逃げるぞ!」建物内のクロスファイアが叫んだ。それに応ずるまでもなく、ナインの視界に、黒い鬣を振り乱す凄まじい馬が飛び込んできた。馬上ではクロスファイアの仲間と思しきニンジャがナギナタを携えていた……!

 馬は嘶き、仰け反って、前肢の蹄を打ち下ろした。「ンアーッ!」倒れ込むナイン! その頭の横の地面に、「イヤーッ!」ナギナタの刃が突き刺さった!「シューッ……」馬上のニンジャの無慈悲な眼光が、呻くナインを射抜いた。ナインの頭は真っ白だった。死を覚悟する暇すらなく……。

「Wasshoi!」

 泥と混乱と熱病と間近な死の只中、ナインは確かに目撃した。邪悪な馬に跨ったニンジャに、別のニンジャが……モーターサイクルで体当たりを仕掛ける瞬間を。「C……EO……」ナインは朦朧と呻いた。だが、そのニンジャはCEOではなかった。赤黒の装束に身を包む、ジゴクめいた、全く違う存在だった。

 KRAAAAASH!「AAAARGH!」モーターサイクルの凄まじい衝突! 超自然の邪悪な馬が恐るべき咆哮を放つ! 敵意溢れる二人のニンジャは各々の乗騎から瞬時に離脱し、空中でカラテを打ち合わせた!「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ノック・バックで飛び離れた二つの影は、着地と同時にアイサツを繰り出す!「ドーモ。ディヴァイダーです」「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」カラテを漲らせ向かい合った彼らの目は、呼応するように、激しく燃え上がった!


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