【デッド! デダー・ザン・デッド!】#3
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「……ヤモト……ああ……そうだった」
ジェノサイドはヤモトを助け起こした。
「そういう名前だった。桜色で……オリガミだ。そうだな」
「そう」
「俺は……ジェノサイド……ああそうだ。俺はジェノサイド」
「うん」ヤモトは埃を払った。「ありがとう。助かった」
「そりゃ何よりだ」
「でも、どうして……ここに」
ヤモトはジゴクめいた事務所を見渡し、尋ねた。
「何もわからねェ」
ジェノサイドは肩をすくめた。
「すまねえが、ここがどこで、今がいつなのかもわからねえ。今は何年だ? 俺は……」
「そりゃそうだ!」
思いがけぬ第三の声は、バフォメット像の方向からだった。二人が見ると、そこではラストリゾートの生首が息を吹き返し(ナムアミダブツ!)、彼らに侮蔑的嘲笑目線を向けているではないか!
「お前はめちゃくちゃ役に立ったぜェー! ジェノサイド=サンンーッ! アババババーッ!」
コワイ!
「お前のニンジャソウルはなァ……ゼツメツ・ニンジャは……ハハハハハ……いわばゾンビー特異点……リー先生が執着していたのも尤もよのォー……!」
「生きている……!?」
ヤモトは息を呑んだ。そして決然とカタナを握りなおした。生首が咳き込んだ。
「無駄だ! なぜって、俺は……もう死ぬよ……」
「ヤクザのゾンビー……今のスカルヘッド……お前のせいなのか?」
「ハハハハハ! いいぜ、どうせ俺は死ぬ! 教えてやる!」
棺桶の幾つかがガタガタと揺れている。
「ああそうさ俺のクスリだ! アノヨの裏側までブッ飛べるッて寸法だよ。俺はただのケミカル・マニアックで……ニンジャらしいニンジャだ……テメェらクズどもが苦しんで右往左往するのが最高だっただけさ! "ピュア・オハギ" もそう! "インフィニット・クエスト"もそう! で、今回の"リザレクター・アソビ" もそうだ! アヒヒヒ、散々狂わしてやった! 楽しかったなあ。いい人生だった。俺は話にノッただけ……あいつが喜ぶドラッグをデザインしてやっただけ……!」
「うるせえ生首だ。黙らせるか」
ジェノサイドがヤモトを見た。ヤモトは首を振った。
「幾つか確かめたい」
ラストリゾートはシュウシュウと息を吐いた。
「お前……ヤモト・コキだよなあ……ザマ見ろ……しつこく追いかけまわしやがって……やりづらくてしょうがなかった……だけどお前は結局、俺を手にかける事はできなかったな……ザマ見ろ……俺はもう……死……」
生首の眼球がぐるりと裏返り、汚い汁をバフォメット像の膝元に吐いた。
それを合図とするかのように、複数の棺桶が勢いよく蓋を開けた。ヤモトとジェノサイドは背中合わせに立ち、備えた。
開いた棺桶は、2、3、4、5つ。墓場の霧めいた濃密なガスが立ち込め、事務所の視界を悪化させる。一体、また一体と、棺桶の中のものが進み出た。いまさらその程度の事に驚いてなどいられない。このデスドクロ・ヤクザクラン事務所はそういう場所だ。もはやヤモトは、サンズ・リバーサイドを踏み出したのだ。
「どうすンだ」
「ここを出よう」
5つのゾンビーがすべてニンジャであるなら、多勢に無勢といえた。
「賛成だ、面倒くせえ。だが、ちと難儀するかもしれねえぞ」
ジェノサイドは手を開閉した。ボロボロに裂けた袖の中から、鎖付きの円形バズソーがガチャリと床に落ちた。5体影がゆらゆらと動き、二人を囲む。ヤモトより小柄なものもいれば、ジェノサイドより大柄なものもいる。ガス越しにそれらのシルエットが見えるばかりだが、彼らになんらかの敵意がある事は間違いなかった。
ヤモトはジェノサイドに囁いた。ジェノサイドはむっつりと頷いた。
「アバー……」
霧の中でゾンビーの一体がうめき声をあげた。
「イヤーッ!」
ヤモトは跳んだ! バフォメット像の方向へ! そしてジェノサイドは両手のバズソーの鎖を大きく振り回した!
「イヤーッ!」
バヂュン! バヂュン! 衝突音と湿った飛沫の音が重なる中、ヤモトはラストリゾートの生首を掴んだ。既にジェノサイドは出口めがけ走り出している。もとより、やり合うための先制攻撃ではないのだ。ヤモトは生首を持ったままその後を追う……!
◆◆◆
「ヤベエ……絶対ヤベエよ……!」
電柱の陰、一人、脂汗を流しながらデスドクロ・ヤクザクラン事務所の砕けたガラスショウジ戸を注視するのは、先ほど逃げ去ったチルドレンの一人だった。彼一人が戻って来た。好奇心が用心に勝ってしまったのだ。決然たる桜色の光が少年の脳裏に焼き付いていた。
「ヤベエけど……ヤベエ……超ヤベエ……」
興奮と恐怖に顔を真っ赤に染めて、少年は見守り続けた……KRAAASH!
ガラスショウジ戸が内側からの衝撃で更に砕け、ガラスが撒き散らされた。そして二つの影が飛び出した。
「「イヤーッ!」」
「アイエエエエエ!」
少年は失禁し、尻もちをついた。事務所から跳び出し、向かいのバカケバブの自販機を蹴り、更に壁を蹴って雑居ビルの屋上へあがっていくのは、ズタズタのカソックコートを着た恐るべき怪人と、先ほどの若い女だった。桜色のマフラーは光そのもののように輝き、軌跡を虚空に焼き付けた。女の手には……ナムアミダブツ! たしかに生首が!
「アイエエエエエ!」
それで終わりではなかった。
「アバーッ!」
後を追って、もう一つの影が飛び出した。ズタボロのマントを纏った奇怪な影だった。やはり向かいのバカケバブ自販機を蹴り、壁を蹴って、同じ方向に飛び消えた。
「アイエエエエ!」
少年は再失禁した。それがニンジャであることは疑いがなかった。しかもただのニンジャではなかった。キングピンなどの暴力的ニンジャに日頃接している彼のような者でも、その不吉なニンジャアトモスフィアを前に、失禁をこらえきれなかった。
それで終わりではなかった。
「アイエエエエエエ!」
少年は再々失禁し、自ら生み出した水溜まりの中に転がった。事務所の中からぞろぞろと、あまりにも人間離れした者達が現れたのである!
「何だオイオイ!」「行っちまいやンの。あわてンぼ」「フフフ……名前何だっけ? アイツ」「ジェットペイン=サンだよ」「フフフフフ!」
気安い調子で会話をかわす者達の冒涜的な異形を白日の下に目の当たりにすると、少年はとうとう正気を失い、ケミカル・サイケデリック死霊妄想にまみれて、気絶した。
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