S3第4話【ヨロシサン・エクスプレス】#10
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コトブキは湖上の鉄橋の前方はるか先、たった一両切り離された車両のふちに佇むニンジャスレイヤーを見つけた。「オーイ! オーイ!」彼女は飛び跳ねて手を振り、それから戯れにモールス信号を試みた。コトブキデス。
「ハァ……ハァ……! ヤベエ……!」その横に、一連の危機をなんとか切り抜けたザックが並んだ。彼は一度、後ろを……通り抜けてきた惨劇を一度振り返った。サクリリージが殺しながら進んできた通路を、彼らは追体験した格好だ。
もはやザックの恐怖の感情は麻痺してしまっている。彼は深呼吸して気持ちを切り替えた。彼は連結パーツからレールを伝って、糸めいたワイヤーがシュルシュルと伸びてゆくのを指差した。「これ、このまま合体すンだぜ! 連結だ。俺、ヨロシンカンセンに詳しいぜ」とりとめもなく、己を鼓舞するように言った。
それからザックは、どこからか調達した双眼鏡を覗き込んだ。「あれ、アニキだよな?」ニンジャスレイヤーはまだコトブキ達に気づいていないようだった。かわりに彼は、なにかをじっと見ていた。「遠いですね」コトブキが呟いた。
◆◆◆
オオオン……。超自然じみた唸り風に乗って、オリガミの火の粉、桜色の花弁は、鉄橋の上から湖へ、はらはらと散っていった。後ろの車両の屋根の上にヤモトが立っていた。身体の周囲を舞う桜色の霞が散ると、その身にまとうのはキモノめいた神秘的な装束であった。
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